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「もう!驚かせようと思ってたのにぃ!」
ぷくっと頬を膨らませる母を宥めるように姉は柔らかく微笑んだ。
「ひー君が来てくれて嬉しい、ありがとうね」
「ううん。…姉さん、婚約おめでとう」
僕はうまく、笑えているだろうか。
「本当はね、開会の挨拶でわーっ!てさせるつもりだったの…、ね、みーちゃん」
「ふふ、私だけでも十分わっ!ってなったよ。あんなにハンサムな方だと思っていなかったもの。お互い今日が初対面だけれど…とても優しくて、良い人だわ。」
「流石にひーくんも、みーちゃんが婚約するなんて思ってなかったでしょ?それに相手がルームメイトだなんて!」
「うん、びっくりしたよ」
僕の日本語は、片言になっていないだろうか。
「…それにしても、残念ね。渋滞さえなければ良かったのに……あら、夕さんは?」
「たしか…私がひーくんを見つける前に他の人に呼び止められてたよ」
「ほんとうだわ。今揃ってお話するのは難しそうね。じゃあねひーくん。ひとまず挨拶回りがあるから、またあとで。慎一君も、今日はありがとう」
2人の背中が遠くなる。
真っ白な頭の中で、更に鐘を撞かれたような衝撃。
へたり込みそうになった身体を支えられてかろうじて、ここは倒れるべきではない場所なのだと、踏みとどまることができる。
「……は」
引き裂いた筈の糸は、目の前で呆気なく繋がってしまった。
「ひぃ、」
僕は、
「……ぅ」
僕は
「ひぃ」
「っ…」
「…あさひ」
「……ぅ、ぁ…っ」
どこか心の中で、どうにかなるって、そう思っていたんじゃないか?
「…朝陽、取り敢えず移動しよう。ここは目に付く」
誰にも見られないように下を向いて歩いた。
きっと僕は今、酷い顔をしているに違いないから。
「朝陽、顔を上げて」
「…っぅ…ぅう」
「大丈夫誰もいないから…思い切り、泣いていいんだよ」
「…し、しん…しん」
「うん、大丈夫、大丈夫だから」
「ぅ…ぁ…」
「朝陽」
親友の優しい香りに頬を擦り付けて、僕は咽び泣いた。
肺から漏れる空気を閉じ込めるように強く、強く抱きつきながら。
階数を表示するプレートが、やけに眩しく光った。
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