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「分からない」
恋人ではない人に縋って、求めて、随分と泣いてしまった。
髪の毛を梳き涙を拭う手は酷く優しく、そして切ない。
「…僕は」
「うん」
「僕はこれから、どうしたらいいんだろう」
シンはそうだね、と頷く。
無意識に噛んでいた僕の唇に触れて、こう囁いた。
「…ひぃは…朝陽は、雛森のことが好き?」
「…好き」
「そう…、でも…お姉さんのことも、もちろん大切なんだよね?」
「……っ、」
そうだ。
僕が「きっとなんとかなる」と思っていたのは、夕の婚約者を“どうせ他人なんだろう”と考えていたから。たとえ今のまま夕と僕が愛し合って、キスをして、セックスをしても、…その人を傷つけることになっても、僕の心は直接痛まないから。
どうせ、他人だから。
「…ぅ、」
こみ上げる吐き気に思わず掌で口を覆った。
なんて酷い、なんて自分本位な、
知らなかった。
僕は、こんな人間だったのか。
「ああ、…朝陽。朝陽は悪くないんだ。こんな状況なんだ、自分勝手にだってなるよ。目をそらして逃げたくなるんだ。誰も悪くない。だから泣かないで、大丈夫だから」
「…それに大切な人を天秤にかけることなんてできない。なのに、それを強要されるこの状況こそ悪で、必然だったんだ。ね、朝陽」
「し…」
いつもとは違う、深い黒をしたシンの瞳に肩が震えた。気がついたようにそれを優しく包んだシンは言葉を続ける。
「雛森を選べば、お姉さんが悲しむ。お姉さんを選べば…きっと、雛森は苦しい」
「ぅ…」
「だから朝陽は混乱してる。どちらかなんて、無理だよね、朝陽には、無理だもんね」
シンの言葉によって明確な背景を得て、そして振り出しに戻った状況。先に口を開いたのは僕だった。
「…でも、夕を選んだとして…もし僕との関係がバレて…ばれたら、もちろん姉さんも悲しいけど、…夕だって苦しくなる、居辛くなる…僕の、せいで。」
肩口に顔を埋めていた僕は、その言葉につり上がったシンの口角を見ることはできなかった。
「そうだね」
「それなら…もう、僕が」
「朝陽」
身を引いた方が、いいんじゃないか。
枯れた言葉はその声に吸い込まれた。
…あの日図書室で、僕は恋に落ちた。
金髪が揺れる、青い瞳の彼に。
「朝陽」
「…っ、夕…」
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