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「…夕」
「朝陽、帰ろう」
握られた左腕と、引き寄せられた腰。
再燃した瞼から涙が零れ落ちそうになって、唇を強く噛んだ。
「朝陽」
「…っ、…それは」
それは、恋人として?
「雛森、やめなよ」
「赤城には関係ない」
「関係なくないだろ。朝陽、俺と帰ろう。この状態で雛森と話したって堂々巡りになるだけだ。問題は解決しない」
「…し、シン、」
「朝陽…?…シン?いつからそんな仲になったの?」
「雛森、お前…」
「何を吹き込まれたかは知らないけど、朝陽は俺の恋人だから」
「っゆ…夕、違う、シンは」
「朝陽…違うよ。赤城、でしょ?」
「お前っ、…いい加減にしろよ!」
右腕を掴まれて、引っ張られる。
「っう、」
「今1番辛いのは誰なのか…少しは考えろ」
「朝陽を返して。それはお前のじゃない」
「雛森!」
シンの叫び声が非常階段に響き渡った。
「し、ん」
びりびりとした空気が肌を刺す。
痛くはない。ただ、苦しい。
光の届かない海で、もがくような、そんな苦しみ。
「朝陽は、…朝陽は雛森のことを…雛森のために、いろいろ悩んで考えたんだぞっ…」
「そう、ありがとう。でもこれは朝陽と俺の問題だから。…こっちにおいで、朝陽」
「…朝陽を蔑ろにしてどうするんだよ、自分本位にも程があるぞ」
「は、よく言うね。一度鏡をみてみたら?ボロが出てるよ。下心しか浮かんでないから。…そんな奴に朝陽は渡せない」
「なっ…」
「もうやめて」
「っあさひ、」
右腕に少し力をいれる。やんわりと解けた拘束に、今度は僕からシンの腕を掴んだ。
「ごめん、夕。今日は赤城と先に帰るよ。夕もまだやることがあるでしょう」
「朝陽…」
「お互いに頭を冷やす時間が必要だと思う。だから…」
そんな悲しい目で僕を見ないで
決心が、揺らいでしまうから
「あさ、」
「あっ、夕さん!」
「っ…」
「夕さんここにいたのね。…あら、ひーくんも、それに慎一君もいるじゃない。どうしたの、みんなして」
ふいに、お母さんの隣に控えた姉さんと目が合った。
家族にしか分からない視線で軽く会話をすると、隣でシンの明るい声があがる。
「伊吹が人に酔ったって言うんで涼みに来たんです。な?朝陽?」
「う、っうん、そうなんだ。こういう場所、久しぶりで」
「あらあら。そうね、寮に入ってから、なかなかこういう機会はなかったものね。…夕さん、少しいいかしら。貴方の顔を見たいって方がいるの」
「え…ええ、いいですよ。すみません、長い間抜けてしまって」
「ということだから。ひーくん、慎一君。少し夕さんを借りるわね。」
「あっ…お母さん」
「ん?」
「僕…もう帰るから」
「あらっ、もうそんな時間だったの?そうね、明日は学校だものね。分かったわ。気を付けて。」
「…じゃあ。赤城、行こう」
「ひー君」
夕とお母さんが背中を向けるなか、姉さんは躊躇いを吐き出すようにそう呟いた。
「姉さん」
「今日は本当にありがとう…、また2人で話がしたいわ。電話する。…目の腫れがおさまったころに、会いましょう」
「…っ!う、うん」
大分おさまったと思っていたのに、姉には見破られてしまった。
咄嗟に目を隠す僕を笑うその姿は我が姉ながら、とても美しい。
「躓いて転んだ、のかな。帰りには気を付けて。もっと大きな石があるかもしれないから」
「…もう、ほら、早く行きなよ、」
「ん、じゃあね、また」
その綺麗な後ろ姿をじっと見つめた後、僕らは帰路についた。
シンは囁いた。
「俺の部屋においで」と。
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