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朝陽がいなくなった部屋で1人、ベッドに腰掛けてネクタイを緩めた。
何気なく置いてあった本を開いて、閉じる。
意味もなくページをパラパラと捲るのに飽きた頃、ふと上げた視線の隅にオイルヒーターが掠めた。
「……」
たしか、あれは中学1年の冬休みだったと思う。
病気で亡くなった祖父の別荘で温かい家族と過ごし、にこにこと笑いながらケーキを頬張ってそれから暖炉の火があたる安楽椅子に腰掛けた両親の側で本を読んだ。
『しん君は、本当に良い子ね』
僕の両親は2人とも優れた人で、聡く、しかしまた臆病でもあった。過去の記憶を塗り替えるようにそう言い続ける機械をその日、僕は殺した。
だって煩いから。邪魔だったから。
でもほんとうは少し、怖かったからかもしれない。
人体模型が見てみたくてナイフで殺した守君のことも、保健室の先生とセックスしているところに入ってきて、青い顔をした実里先生を自殺に見せ掛けて殺したことも、全てバレている気がしたから。バレていたから。
革で出来た袋に砂を詰め入れ絞った物で一発殴れば2人は眠ったような顔をしてくたりと動かなくなった。それから絨毯に火をつけた僕は近くの公園へ遊びに行った。
ブランコをこぐ中、家は燃え続けた。
両親の顔を見ることは二度と無かった。
このオイルヒーターはその葬式の後、ここへ持って来たものだ。クーラーが吐き出す空気は不味い。
朝陽も嫌いらしかったし、それまで暖房を付けていなかったから朝陽はある日風邪をひいた。
そして。
ウイルスに侵され、目を潤ませる朝陽に僕の殺人意欲は不覚にも駆り立てられてしまった。
殺したい、と。
ミルクが沸騰するかのように突如湧き上がった感情に僕は振り回された。
殺したい。
いや、閉じ込めたい。
頭の中で絶対に他人にバレないような殺し方を何通りも考えて、想像した。けれどなかなかどれもしっくりこなくて困った。
泣きぼくろを活かした、美しい演出をプラスしたかったのだ。そしてそれはなかなかに難しかった。
そうやって考えながら、椅子に腰掛けて首筋を凝視していた僕の手からふいに水銀の体温計が滑り落ちた。
朦朧とした意識の朝陽は呟いた。
「…お星様みたい」
死ぬかと思った。
そうだね、と散らばったまんまるの銀色を見つめながらも僕の身体は全身が心臓になったように煩く鼓動した。可愛い。綺麗。素晴らしい。
その瞬間僕は自覚した。
これは殺人衝動なんかじゃない。
恋だ。
朝陽のことが愛しくて堪らないんだ。
…好きな人を傷付けない為に他の人間を抱くなんて、そんな健気な真似をするのは安い小説に出てくる猿、結局は自分しか見ていない人間くらいだ。
僕は努力した。
今までよりもさらに磨きをかけて面白おかしい人を演じることにしたのだ。
朝陽はああ見えて人見知りだ。それも厄介な。
まずは親友を目指そう。時間はたっぷりあるんだから。
そう、思っていた。
なのに。
髪を掻き上げて立ち上がる。
そうだ、シャワーでも浴びよう。
もう少し。もう少しだから。
もう少しで朝陽が手に入る。
「〜♪」
口笛の調子がいい。
マグを持ち上げて、飲み口を舐めてみた。
甘い味がした。
--------------
慎一君はヤンデレとかそういうのではないです。ただ朝陽のことが好きでたまらなくて、それを実現するための計画と、それを実行するための忍耐を持ち合わせたやばい人間なだけです。
たぶん夕をめっちゃ強くしたかんじです。
補足でした。
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