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「ひぃはそれでいいの」
掴まれた腕が痛い。
けれどその痛みが即物的なものでは無いことは分かる。
だからこうして項垂れたまま、シンの言葉を待つ他無かった。
「もがくより、水に沈んだほうがずっと楽なんだ。この意味、朝陽にはよく分かるよね?」
「うん…分かる、分かるけど」
「けど、なに?」
「夕が…今を選んでって…僕も、もう、何の為にもがくのか分からなくなってきたんだ」
「誰も傷付かないためだろ」
シンは強く言い放つ。
「…好きな人と離れたくないなんて、当たり前なんだ。その点雛森は自分のことしか考えられてない。その結果悲しむことになるのはその好きな人なのに、目先のことだけに囚われてる。朝陽もだよ、…ねぇ、聞いてるの」
静寂が幅を利かせる管理棟の非常階段。きっと鋭い目をしたシンが僕を見ている。
「ごめ…なさい」
「なんで謝るの」
「だって…僕、駄目だ。見失ってる。…見失ってた。それに…シンも傷付けた。相談…乗ってもらったのに」
唇を噛んで、顔を上げた。
怖い顔をしていると思った。
優しい目をして僕を見つめるシンに引き寄せられて、ふわりと包み込まれる。
「…そんなことは、どうでもいい、どうでもいいんだ。朝陽はこの先のことを考えなきゃ。」
「どうして…」
「ん?」
「どうして、シンは」
腰にまわった腕に言葉を止められる。深い色をした瞳に僕がうつった。
「朝陽が傷付くのを、見たくないんだ」
「―――っ、」
途切れていた意識が急浮上する。
吐き気にも似たその感覚に胸を抑えながら、また自分が何も身につけていないことに嫌悪した。
「っ…」
今日は、金曜日。
先週の日曜に夕と姉の婚約を知ってから僕は今日まで学校に行くことはなかった。
夕を説得しようとすればなし崩しに抱かれる。愛を囁かれて、絆される。
目を覚ませば抱き締められているか、挿入されて揺さぶられているか、それだけだったと言えるくらいに、学校にも行かずセックスばかりしていた。
腰の痛みが酷い。
一週間行かないのは体裁に悪いからと登校したけれど、やはり上手く取り繕うことができなくて。夕が席を空けた時、シンが非常階段に連れて行ってくれた。
シンの言葉が蘇る。
『もがくより、水に沈んだほうがずっと楽なんだ』
そろそろと上半身だけを起こして、隣に流れる金色を撫でる。
(皆、驚いてたな…)
編入生はもちろん、中等部から持ち上がりの人まで。皆夕の変化についての憶測で湧いていた。
「…失恋、か。」
滑らかな頬の上、涙の跡が残っているのを認めて胸が締め付けられるような思いを抱いた。
帰寮するなりベッドに連れ込まれ、時間を繋ぐように、引き延ばすように抱かれて眠りについたのは1時間前くらいだったと思う。
伏せた長い睫毛が持ち上がる気配は無い。処理をして、シャワーを浴びよう。
…起きたらハッキリ別れを告げるんだ。
そうして立ち上がった時だった。
どこかで空気が振動するのを感じて、慌てて携帯を探す。
たしかスラックスを投げたのは円卓のほうだった。予想通り、円板の下で丸まっている布から端末を抜き取って耳に当てる。
「…姉さん」
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