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襟ぐりの深いアンダーシャツを掻き集めるように釦を留めた。
未だ地震へのどよめきが残る店内。ふらふらと席に着いた姉は信じられない、そんな顔をして言った。
「それって、キスマークよね…?」
どうしよう
「でも………ひーくんの学校は男子校でしょ……?」
もしも、バレたら、
「ひ、くん」
姉はそこではたと口を噤んだ。
何かに気がついたように、目と口を開いている。
「ねえさ…」
「まさか…夕さん、じゃないわよね…?」
「…………っ」
ひー君、そんなか細い声が聞こえた気がした。
「…それ、は…」
「…否定しないの?……夕さんなの?…ねえ、」
「…っ、ぁ」
口がからからだ。
出ない言葉をねじ伏せるように姉は溜息をつき、眉間を抑える。
「…わ…私が、ひーくんが、何故共学に入学しなかったのか分かる?」
「え…」
「…恋人ができないようにするためよ」
「…っ」
「彼もきっと同じ。私達旧財閥系とは気色が少し違うけれど、彼の家だって昔からある大きな家。ひーくんはよく知ってる筈よね」
「ごめんなさ…」
「謝らないで。ごめんなさい、…こういう話題は避けてきたものね……それに私も…」
唇を噛むその美しい顔に影ができる。もう一度溜息をついて、言った。
「ううん。もういいわ」
「…あ、あの」
カタカタと震える手は最早自分の制御を離れていた。
俯き、同じように手を抑える姉。
「ぼく…」
別れなきゃ。何度も繰り返したこの言葉を、僕は呪文のように心の中で唱えた。
「わか、わかれるから」
「そんな問題じゃ」
「分かってる、分かってるよ、でも」
「姉さんは、夕の婚約者でしょう」
「…っ、そうね、そう、そうよね」
一口分だけ減った珈琲は、きっと冷えているだろう。
「これ、お金…今日はありがとう……っ、また、またね」
なおざりにお金を叩きつけて、店を出る。
自分自身逃げているという自覚は無かった。
ショップ袋が足枷のようにまとわりつく。
蛍光イエローのカーディガンが風に翻弄され、跳ねた。
「…朝陽」
「……っ、夕、別れよう」
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