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食事処
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レトルト
取り留めなく、友人との楽しげな会話に耽る。
東京に来てからというもの、その数少ない友人の中でも気のおける二人とこうして食事に来ている訳だが。
「ケータイテーブルの上に置いとくと、汚れちゃわない?」
何気なく指摘されるこの癖は、いつの間にかついてしまった。
ーいや、そんな事ないよ。
曖昧な返事をすると、ふぅん。と同じく曖昧な、さして興味もなさそうな返答が返ってくる。
「それよりさぁ、この間のテレビで…」
つい先程の話題もすでに変わり、最近のテレビ番組の話で盛り上がり始めている。
ピロリン。
短くスマホが震え、通知が画面に出る。
ー投稿動画がマイリストに保存されました。ー
運営からの自動送信メールの通知を、さして興味もなさげに眺める。
「お待たせいたいました〜!」
飲み物が運ばれてきて、それを受け取りながら通知を消す。
もとよりもう期待なんてしていない。ましてや、望む人から連絡が来るなんて…。
それでも何かしらの通知が来る度に、はやる気持ちで確認してしまう。そして、すぐに落胆。
いい加減往生際が悪いなぁと思いつつも、すぐに画面を目にする事ができる位置にスマホを置くのを止められない。
乙女の淡い片思いの様なこの気持ちも一緒に、カバンの奥底にしまえたら。
連絡手段など視界から外して、せめて今は友人との楽しい時間を優先に…。
レトルト「出来ないんだよなぁ…。」
溜め息と共に吐露される言葉の意味は、二人とも知る由も無い。
「なに、新作ゲームのクリアが?」
「それいつものことじゃん!」
勝手に話を進められて、挙句馬鹿にされてる気がしなくもないが、きっと自分は辛気臭い顔をしていたのだろう。
俺のゲームの腕前を、ああでもないこうでもないと輪の中心に入れてくれるあたり、彼らなりの気の使いようがうかがえる。
レト「お前らなぁ、ようく聞け…」
持つべきものは友だなと、感謝しつつも憤慨を露わに語り始めかけたが
マナーモードよろしくバイブ音が鳴り響く。
うるさくテーブルを振動させている自分のスマホを止めようとして、
ー呼吸が、止まる。
着信、宛先は…
ー続いて、心臓が跳ねる。
アブさんからだ…
ドクドクと脈打つ心臓をよそに
友人を尻目にトイレとだけ告げて、足早に外に出る。
外気の冷たさに身をすくませるが、急ぎ、通話ボタンを押す。
レト「もしもし」
アブ「…もしもし?今大丈夫〜?」
うわぁ…
懐かしい様ないつもと同じ様な声色に安堵する。
アブ「…おーい、もしもーし?聞こえてる〜?あれ?」
レト「き、こえてます、…!」
ハッとして慌てて返答をすると、鼻で笑うような声が小さく聞こえた。
アブ「突然なんだけどさぁ、今から来れる〜?」
レト「えっ…」
今、友人と食事の真っ只中だった。
アブ「んーダメならいいんだけどねぇ〜?俺はどっちでも」
このままではせっかく戻りかけた距離が…
レト「行きます。家、ですよね?…」
そう、待ってるねと言葉を短く交わして通話終了ボタンを押す。
押してから、しまったと後悔する。
待ちわびた相手からは自分ほど緊張が無く、寧ろ何時でも会える様な口調だった。
だったら、今宵予定を合わせ食事に来てくれた友人を…
そこまで考えて頭を振った。
会いたい。
意地を張ったままではいつまでたっても会える気がしない。
会いに行こう。
少なくとも、呼ばれてるわけだから会って話はできるはず。
ややあって自席に戻ると、
友人らが何だ何だと押し問答をしている。
レト「ほんっとごめん、埋め合わせはちゃんとするから!」
そう言って自分の会計分より少し多めに小銭を置いていき、店を後にした。
そのあまりの慌てっぷりに、
一人はあっけらかんと、もう一人はにやにやとしていた。
「ありゃ、色恋沙汰だわな。」
「あいつに限ってそんな事…あるのか?」
何にせよ、友人二人は当人が居ない事をよそに好き勝手に論じていた。
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