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分からないよ
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「…はぁー…」
五月中旬。
快晴が続いてる。
晴れ晴れとした青空には細く白い雲が浮び、穏やかだなぁなんて呑気に思う。
四月は雨ばかりだったから、嬉しい筈なのに。…なんでかなぁ。頭がボーッとして、やる気が出ない…?
「…コレが世に言う五月病ってやつかねぇ」
溢れた言葉と一緒に、溜息を吐き出して。
寄り掛かった窓辺に頬杖を付く。微風がさらさら髪を撫ぜた。
目蓋を綴じながら、その風を感じる。
モヤモヤしたこの胸の気持ちが少しだけふっと軽くなった気がした。
「阿呆面」
耳元で囁かれた言葉が、あまりにも近くて、吐息を感じた。
低く響く低音に、ぴくっと身体は固まる。反応する。
本当は俺は物凄くびっくりしたのに、上手くさりげなく、意識なんてしないように、何時ものあの、気が抜けた感じ振り返った。
「……あんさんねー…、驚かさないでよ」
耳をさっと、隠してジトっと相手を見詰める。…今はあんまり話したくないんだけどなぁ。こんな時ばかり、あんたが俺に構うのは喜ぶべきことなのカナ?
「お前がボケーっとしてるからだろ?つーか、とっくに掃除終わってるんだけど?」
どうやら俺をいつも通り教室で待っていたらしい。…ありゃ、すっかり忘れてた…。
今日はゴールデンウィークの連休明け。
久々に見た委員長こと杜宮の顔は、何時ものあの、偉そうな面構えに薄っすらと青筋を立て、俺に罵声を浴びせた。
(…この間は、なんだか元気なさそう…てか不機嫌?だったけど…)
「絶好調…ですネ、委員長さん」
「…はあ?」
うん、ホントにネ。
どこか吹っ切れた?…みたいな?
前よりパワーアップしてる…みたいな??
そんな俺の言葉にガチギレして、ガンを飛ばす杜宮。…どこの不良サマですか。
「なに?ケンカ売ってんの?」
「………いやいやいや」
お得意の笑顔で物騒な言葉を並べないで下さいな。…本当さ、こんな学級委員長見たことないよ。全国一のふりょー委員長じゃない?
(……けど)
『いや、折角だけど遠慮しておくよ。少し外に出ただけでまた家に戻らないといけないから』
『本当に残念だよ。また誘ってくれ、望月
』
(あの時の…本調子じゃない、しおらしい杜宮ってのもさ)
「…けっこー、可愛げあったよねぇ…」
……って、思ってる俺はどうかしてるらしい。
「なんか言ったかよ?」
「うんやー、別に…?」
俺の数歩前をあるく、小生意気な仏頂面の男が、不機嫌そうに振り返り、声を掛ける。…ふつーさぁ、可愛いと思うわけないよねぇ。
…だって、相手はオトコよ?
イカレちゃってるでしょ?ふつーに考えたらサ。
(不思議で、たまんない)
前の男の背を見詰めたまま、んー…と小さく唸る。俺もさ、こんなんだけど、それなりにオトコやって来たワケよ。
野郎よりはまぁ柔らかいオンナのコがいいでしょーよ、ふつうわ。
『くれないなら、勝手に奪うから』
…何でなんだろう。
シオちゃんの言葉が、ずぅっと俺のココロをザワつかせる。ずーっと、掻き乱すんだ。
こんな感情、初めてだから…。
分からない…。何であの時、"あげたくない"なんて言葉が、口を付いて出たのかな。
『……はっきり言ったら…?あたしの事、最初っから、何とも思ってなかったんでしょ…?』
『誰にも本気になんて、なったことない癖に』
『…嫌いって言われるより、無関心だったって事の方が…つらいの…』
本当になぁ…君の言う通りだよなぁ…。
俺みたいな奴が、なーに言ってんだか。
足取りが、段々とゆっくりになる。
……重たいや、何でだろ。
遠のく杜宮の背中…、"待って"なんて言葉が喉から出てこない。視線は下へと、落ちる。
(俺のこの気持ち、本当にタダの気紛れなんじゃないの…?)
興味本位?
勘違い?
何だってそうは、変わらない。
信じられないんだ。
…自分の心が、気持ちが。
「……望月?」
ねぇ、俺のこの、気持ちはさ、何なの?
「どうしたんだよ、アンタ」
俯く俺を覗き込む杜宮。
その瞳に、目が奪われる俺はやっぱりどうかしてる。
「……今日、一日変だったよな。具合悪いのかよ…?」
俺の為にぶっきらぼうに、気を遣ってくれる。…キャラじゃないだろーに。似合ってもいない。
少しだけ、オロオロする杜宮に、ぐっと心臓を掴まれたみたいに痛くてだけど、嬉しく思うこの感情は、なに?
(あんたが優しくしてくれるなんて、……明日、雨なんじゃないかしら)
「し、んぞう……、いたい…、」
何故か、不意に泪が溢れそうになって、おれは必死に堪えた。そして、しきりに痛みを訴える胸の痛みをそのままに、只只、目頭を押さえる事しか、出来なかった。
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