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宝もの
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side 杜宮 啓介
大切なものがあった。
それを見つけた時、初めて生きてるって思えた。かけがえの無い、失う事なんて出来ない。心からそう思えたんだ。
「学校では常にトップでいなさい」
俺を縛り続けるその言葉。
現実は、なんだ?
詰まらなくて、退屈で。
毎日が、変わることがなく過ぎてゆく日常。
夜だけだったんだ。
ほんの少しの自由があった。
「…綺麗だ」
如何して暗闇の中でも、あんなに光って居られるのだろう。
瞬くそれは、何億光年という長い時の光。
そんなにも離れているというのに、その光はとても強い。そして、真っ直ぐ俺に届くのだ。
持て余している小遣いで初めて買った望遠鏡。
欲しいモノなんて、無かった。
小さな頃から身の周りで困った事なんてない。全て与えられた。…不便なことなんて一つも無い筈なのに。心動かされることはなかった。
望遠鏡から覗いた世界は、とても衝撃的だった。狭い世界でしか、生きてこなかった自分には眩しく見えた。この地球に存在している不思議。俺のちっぽけさ。勉強だけしか知らない俺はなんてちっぽけなんだろうって。
「もっと多くの星が、存在してるんだろうな」
漆黒の夜空を見つめる。
明るい過ぎる都会に星はほんの少ししか見えない。宇宙には数多くの星々が存在する。
「…宇宙をみてみたいな」
無数の星をみたい。
目蓋を閉じ、想像する。
頬が緩み、心がなんだかワクワクする。
寝静まった街に心地良い風が通り抜け、カーテンを揺らす。
静かな夜が過ぎてゆく。
…明日になれば、また現実が顔を出す。
息苦しい、日常が。
夜だけが、唯一の自由だった。
素直に自分を出せる夜だけが。
それでも、俺は逃げたりなんかしない。
けれどだけど。
だから。
この宝ものだけは、どうか奪わないで。
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