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休日【忍岳】
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蒸し暑い土曜日の昼。二人の少年が道端で自転車に乗りながら会話をしていた。青い髪に丸い眼鏡が特徴的な長身の少年と綺麗に切り揃えられた若干だが赤髪の少年だ。二人は氷帝学園の制服を着ていた。おそらく中等部だろう。青い髪の少年の名は忍足侑士。ポーカーフェイス・ファイターという呼び名を持つ氷帝学園の天才だ。一方赤髪の少年の名は向日岳人。アクロバット・テニスの名手で同じ東京都の強豪である青春学園の菊丸英二も認める凄腕のプレイヤー。二人は氷帝学園のダブルス2として全国に名を残している有名なテニスプレイヤーだった。
そんな二人も部活帰りの蒸し暑い中で平然と会話をしている姿を見れば中学生に見える。どれほど試合中に冷静だろうとコートから離れれば中学生の男の子なのだ。二人はダブルスを組んでいることもあるのか仲は良い。今日も忍足が岳人に話しかけていた。
「なあ岳人……今日時間あるか? 」
「ああ……別に特に用事はないぜ? 何かあるのか」
「前から観たい映画のDVDがあってん。一緒に観たいなって」
「……ふーん。まあいいけどよ……変なもんじゃねえだろうな」
「変ちゃうわ。普通や」
「まあ良いぜ、ちょうど俺も暇だったからな」
ここで断っておけばよかったと後々岳人は後悔することになる。二人は急いで自転車を進め猛スピードで忍足の家へと向かった。
(相変わらず片付いてんなー)
忍足の部屋には無駄なものがほとんどない。ここに上がるのは初めてではないが岳人は少し驚いた。内装も白を基調としオシャレな空間だった。息を吸うのが少し勿体ないような気もする。そんなあまり物のない空間にぽつんとある白いソファーに岳人は座った。少し大きめで忍足が横になってもまだ十分縦のスペースはあるほど大きいソファーだった。
すると忍足が笑いながら岳人に声をかけた。その手には一枚のDVDがあった。
どうせ忍足のことなので欠伸が出るような恋愛映画だと岳人は思っていた。
「これや! 」
いかにも怖そうなパッケージ。現実は違っていた。忍足が見たかった映画は狂気的で怖いと評判のホラー映画だった。その笑顔を見て岳人の表情が少しだけ引き釣る。実は、この手の映画が岳人は大の苦手だった。それを知るのは幼馴染みの芥川だけだが自分のいらないプライドのせいか岳人はこんなことを口走った。
「お、面白そうじゃねえか! 今日は一日中ホラーが観たい気分だったんだよ。気が利くな侑士」
さすがに一日中は冗談だったが忍足は嬉しそうにその言葉に返答をした。
「ああ、今日な父さんも母さんおらへんねん。泊まろう! 泊まってホラー観ようか。まだあるで」
「そ、そうだな…じゃあ俺家に連絡してくるわ」
バタンと閉じられたドア。岳人はケータイを握りしめたまま震えていた。けれど言ってしまったものは仕方ないと考え岳人は母親にメールをした。 『侑士の家に泊まる』とだけ。やめなさい、と正直言ってほしい。数分してメールが帰ってきた。 『侑士くんとなら安心ね。楽しんでらっしゃい! 』と。
岳人が初めて母親を恨んだ瞬間だった。けれど引き返すのは自分のちっぽけなプライドが許さなかった。岳人はドアを開け忍足がすでにいるソファーの隣にどすんという音を立てて座った。
(こうなったら耐えてみせるぜ―――)
岳人はそう誓った。忍足に気付かれないようにそっと呟きもしたが。
けれど苦手な人間に耐えられるはずがなかったのだ。叫ぶシーンでは思い切り震え上がり終始真っ青な顔を岳人はしていた。そんな瞬間を見ていた忍足は笑いを堪えるのに必死だった。けれど彼はポーカーフェイス・ファイターの別名を持つ人間だ。表情には一切出さずじっとDVDを見続けていた。
岳人はDVDを連続して3本ほど見て疲れきった。簡単に夕食をとり震え上がる中での入浴。そして最も過酷な就寝へと入る。正直、怖くて全く眠れない。一人だと恐怖のワンシーンがすぐに蘇ってくる。怖いという感情を抱いたのは久しぶりだった。
「ゆーし…まだ起きてるか? 」
岳人は暗い廊下を抜け忍足の部屋に入った。蒸し暑いはずなのに恐怖のためかひんやりした空気に思えた。忍足はゆっくりと目覚め電気をつけた。
「何や……岳人。寝れんのんか」
「……ああ」
「もしかしてあの映画が怖かったとか……」
「そんな訳ないだろ! バカじゃねえの」
必死で否定する姿がまた可愛く思えた。忍足は以前から岳人に少しだけ特別な感情を抱き始めていた。なのでダメもとで今回の泊まりを持ち出してみたのだ。まさか怖いものが苦手だったということは予想外だったが嬉しい誤算だった。
この気持ちを忍足はハッキリさせたかったのだ。
岳人はゆっくりと忍足の元へ近づく。忍足が寝ていた布団は薄いが大きく体の小さい岳人なら余裕で入れる大きさだ。岳人は不本意ながらもその布団へと潜り込んだ。
「……なあ、しりとりでもせえへん? そしたら知らん間に寝れるやろ」
「子供っぽいけどな……たまには良いかもな」
「……じゃ、負けた方が勝った方にキスするっていう罰ゲームはどうや」
「キモいな……まあ良いぜ」
早く寝れるし、と心の中で呟いた。 りんご、ゴマ……と一般的なルートで進んでいくしりとり。すると忍足がす、の言葉に感情を混ぜた。
「すき」
「きのこ」
「この気持ちは何なんや」
「野菜」
「言ってしまったら関係も変わりそうで怖い」
「いい加減にしろ」
「廊下ですれ違ってもなお前のことばっか考えてしまうんやで」
「でかいからな。お前はでかいからすぐに見つけられる」
「ルート。どんなルートでもお前を探せる自信があるで、俺は」
「分かってないなお前は。俺だってそうなんだよ」
「よう似てるな俺ら」
「」
ら、言葉が出なかった。この時点で岳人の負けだ。忍足にキスをしなければならない。
「好きやで、岳人」
「……ふん、俺からのキスだ、ありがたく思えよ!」
軽く頬にキスを落とした。少し明るく輝くランプでも岳人の顔が赤いのがわかった。忍足は嬉しそうな顔で微笑む。
「あーくっそ……さっきまで怖かったのに今度はお前のせいで寝れねえよ。……責任とれよな」
「はいはい、分かった……じゃ、今夜は自由にさせへんで」
忍足は付けていたランプのスイッチを落とした。夜はこれからだ。二人の静かな夜はゆっくりと更けていく。その間に少しだけ関係も変わっていくのだろう。
―――そんな休日のお話
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