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曇りの一点
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確かに、男娼でありながら陽の客の中には女性がいる。基本的には女性友達のような事を求めて来るのだが、たまにホストと同じ接客を頼む客もいる。
連絡して来たのは後者の女性であり、一度だけだからお願いしますと震えた手でお金を差し出して来たのを覚えている。
「珍しいな」
「抱いてあげたのは間違いないんだけど、もう一回だなんてねえ。アタシ、これでも男娼なんだしガチ恋は困るんだけど」
「ガチ恋は無いだろ、偏見もあるがこの業界に同性愛者が多いのは事実だ」
「甘いわよ、アンタ。変に人の事を決めつける奴なんて、この業界には山のようにいるの知ってるでしょうに。あの娘にはもっとイイ男が見つかるわよ」
そう言って、陽は断りの連絡を入れた。そういうものかと言って、影宗も頭の中からその客の事を消した。
これ以上覚えていても、深入りしそうだから。線引きが大事な業界なのだ。
「さてと、マスターから連絡受けてるのは二人よ。帰りはちょっと遅くなりそうね」
「冷蔵庫に物が無いぞ、今の内に買い出しだな」
「外食しましょうよ」
「貯金しとけ、後の為に」
この業界に平和な日は貴重だ。トラブルが起こる方が多い。
その日は、とある客が店に戻った陽に迫っていた。
「雪、この前は」
「アタシ、言ったわよね?ネコは嫌なの」
「ごめん!でも、こっちの方も気持ちいいから」
陽は客に優しい。それは確かに、男娼でありながらタチである事に負い目を持っているからという事もある。だが、その前に客だからという理由が第一に来る。
大抵その優しさが自分にだけ向けられたものでないと分かれば身を引く。そもそも、Karmaに来る人間は線引きを承知で指名することになっていた。
「何があってもアタシは嫌よ。それ以外ならいいけど」
「一回やってみれば違うかも」
「お断りするわ」
あまりに諦めが悪すぎてどうしたものかと陽が考えていると、影宗がそっと肩に手を置いた。
目線で店の奥に入れと言っている。了解とばかりに、男を放って店の奥に消えていく。
「あ、待って!」
「お客様、困ります。騒ぎを起こしていただいては」
影宗がそう言うと、一転して怒り始めた男が影宗に掴みかかった。
怒鳴りつけられそうなところで、周囲の客が間に入った。
「アンタ、野暮はいけねェよ」
「雪はあれでいいんだよ、強要は禁止だって言われてるだろ?」
「俺達まで出禁になったら困るんだけど」
客達に言われて言い返す事も出来なくなった男は「ネコも出来ない男娼のくせに」と吐き捨てて去って行った。
何だあの男はと影宗が心の中で悪態を吐いていると、客のとある声が聞こえてきた。
「しかし、嫌がるのはまあ分かるけど、それなら男娼じゃなくてもホストとしてやっていけるよね」
「何かあったのかもとは思うよな」
影宗はその言葉にはっとした。再会したその日から今の今まで、陽の事を聞いた事は無かった。聞いてはいけないのかと思った事もあったから。
知らなくても、自分は陽の側に居たいと思った。ただそれだけでここにいる。
そして、プライベートでは自分がタチで陽はネコだ。
体が火照るからと誘われたのが最初だったけれど、さっきの嫌がりようを見れば自分との行為中に嫌だと感じる何かがあって、客とはしないようにしているのかもしれない。
幼馴染である自分には言い出せないだけで。
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