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「ただね、これは幾つかの仮説を読んだ末の私の持論だけど──ただ恋人を作るだけでは、治らないように思うんだ」
「と、仰いますと」
「本当に好きな人と結ばれない限り、完治は難しいのではないか、とね。『キスキス病』は恋の病だ。かりそめの関係では治療など出来ないよ」
ふ、と医師は息を吐き出す。彼の後ろで、昼休みがあけたら来るであろう患者の為に寡黙に準備をしていた看護師が、手を止めて医師を一瞥した。
「私は、かりそめの関係を否定するわけでは無いよ。人生を歩む為には、むしろ必要だと思っている」
「はあ」
看護師の医師を見る目が、鋭く変わった気がする。
「という訳で、だ。君、今夜は空いているかい」
医師の囁きに、記者は目を見開いた。
「マスメディアの一端を担う者として、未知の世界があるのは良くない。取り入れて損をする知識など、この世には存在しない。そうだろう、新聞記者さん」
ずい、と身を乗り出して医師は言う。もっともらしい口振りだが、要は誘っているだけだ。
「いえ、知らなくて良い世界もあるでしょう」
医師の気分を悪くしないように、やんわりと断りを入れながら、少し後ろめたい気持ちになった。記者にとって男と過ごす夜は、未知の世界ではない。こうして医師に誘われているのも、そんな雰囲気を無意識に感じ取られたせいかもしれない。
「私はピロートークには定評があってね。『キスキス病』についても、もっと詳しく教えてあげるよ」
「いえ、先ほどのご説明で十分ですので……」
医師が記者の肩を掴む。振り払おうとしたその時、鈍い音がこの場に響いた。
頭を押さえる医師の背後には、バインダーを構えた看護師がいた。どうやら彼がバインダーの角で、医師の頭を強く叩いたらしい。
「いい加減にして下さい、先生。記者さんがお困りですよ」
「だからと言って、これは横暴だ」
「貴方に落ち着きが無いのがいけないのでしょう」
ぶう垂れていた医師だが、看護師がこう耳打ちすると、表情を一転させた。──先生、僕がベッドを温めて差し上げますから。
「やっぱり君は素晴らしいよ。凄く可愛い」
看護師はすぐさま背を向けてしまったが、耳が真っ赤になっていた。
あと10分で、昼休みがあける。情報も得られたし、2人の仲を邪魔するのは野暮だろう。仰々しく礼をし、記者は病院をあとにした。
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