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なのにジーグとは、嫌でも毎日キスをしなければいけない。病を患うほどなのだ、ニヒトが家の鍵を開けなくなったら、ジーグは本当に死を選ぶのだろう。
本気で好きな相手でなくとも、毎日誰かとキスすれば、死は免れるらしいのに。治療は出来ないが、死なない分マシだろう。しかしジーグは、ニヒト以外を望まない。
本当は、完治して欲しかった。ニヒトは治療に関する箇所に、もう一度恨みがましく目を通した。やはり『本当に愛している相手でないと、治療の効果が無い』と書かれている──いや、待てよ。
ニヒトは自分が曲解しているのではないか、と思った。単に『恋人関係』になれば良いだけであって、何もジーグを好きにならなければいけない訳ではない。それにこの記事に書かれているのは、あくまで仮説なのだ。
ニヒトは決意した。ジーグを完治に導く為、あまり気乗りはしないが、形だけ、ジーグの恋人になろうと。
その晩、指定された時刻にジーグはやって来た。儀式のようなキスを終えると、ニヒトは例の提案を持ち掛けた。
「本当か?」
「ああ。アンタもあの新聞を読んだろう、完治するにはこれしか無いんだ」
「ニヒト……」
ジーグの手が、半ば衝動的にニヒトの元へ伸ばされた。しかしジーグはすぐにそれを引っ込める。見かねたニヒトが声を掛けた。
「俺を抱きしめたいなら抱きしめれば良い。形だけとはいえ、恋人なんだかっ──」
言い終わる前に、ジーグはニヒトを掻き抱いた。ジーグの腕の中は、少しだけ汗の匂いがした。
「悪いな、ニヒト」
眉を八の字にして謝るジーグに、ニヒトは何の言葉も返せなかった。
ジーグとニヒトは隠れて付き合った。正確には、周りの目の届かないところでだけ、付き合うフリをした。
「映画行かないか?」
「ん、どんな映画」
「巨大ヤムヤムクラゲの逆襲」
「あ、それ俺も観たかったやつだ」
「じゃあ休日に行こーぜ」
ジーグはたちまち笑顔になる。ニヒトも無意識に微笑した。ジーグが『キスキス病』を発病してから、ニヒトはジーグの前では暗い面持ちをしていたのだが、最近は表情が和らいできた。
きっとジーグのニヒトへの接し方が、彼を安心させているのだろう。手や顔に触れる時も、強引になどしない。ニヒトが良いと言った時だけだ。
必要最低限のキス以上のことは、無理にニヒトに求めない。
それはジーグにとって酷なことであることはニヒトも承知していたから、抱きしめることだけは許可無しに許容していた。友人同士でも、試合に勝ったときなどはハグをする時もある。ゆえに、ニヒトにとっては一番、精神的負担を感じないで済む行為だったのだ。
だから今も、ニヒトは拒絶しなかった。ジーグは優しく柔らかく、ニヒトを腕の中に抱いた。
「いい匂いだな、ニヒト」
「昼にフルーツコーヒーを飲んだせいかな」
冗談めいた口ぶりでニヒトは言う。初めはやはり落ち着かなかったが、今はむしろジーグに抱かれていると落ち着くようになった。慣れというのは怖いものだな、とニヒトは内心呟いた。
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