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ヒーロー計画8
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次の日。匡が部屋のドアを開けると、隙間から黒い人影が覗く。嫌な予感がして急いでドアを閉めようとするが、
「おい、この俺から逃げられるとでも思ってんのか?」
土台無理な話だった。がっちりとドアの縁を握られて押しても引いてもびくともしない。
それでも何とか閉めようと、彼の手を殴りつけた。小さなうめき声と軽くなるドア。すかさず鍵まで閉めてドアを背に大息する。
大樹は殴られた手を苦々しげに見つめると、ドアを蹴り上げ踵を返す。
やはり一筋縄ではいかない匡に、彼は苛立つのでもなければ怒るのでもなく、さすがは俺が見出した悪役だと満足そうに手のひらを摩った。
正義の味方を名乗っている手前、大樹のせいで彼が登校初日に遅刻してしまったのでは幾分か体裁が悪い。今朝は挨拶代わりの軽いジャブで相手の出方を窺ったまでだ。当然、あっさりと返り討ちにあったことへの言い訳ではない。
そろそろ匡も自分の財布がなくなったことに気付いたはずだ。相手がどう出るかを想像しながら、廊下を颯爽と歩く大樹の姿に、後輩らしき生徒たちが、
「水渓先輩、いつ見てもカッコいいな。なんだか楽しそうだったけど何考えてんだろう?」
「そんなの、俺らが思い及びもしないスゲーかっこいいことでも考えてんだよ」
「……お前、見かけによらず言い方アホだな」
瞳を煌めかせ、褒め称える言葉を口々に交わしあう。
もちろん、その声は大樹に届くことはなかったし、届いていたとしても大して気に留めることもなかっただろう。
彼は、これまでの人生で自分の思い通りにならなかったことなどほとんどなかった。それ故に、どうにでもなってしまう人々の心や機微に関心を傾けることができなかったのだった。
昼休み。チャイムが鳴るやいなや教室を飛び出し、2年生の教室がある2階へ駆け上がる。匡のクラスは把握済みで。2年1組の教室まで来ると、臆することもなくその場にいた生徒に無遠慮に声をかける。
「おい、庭村匡って奴いるか?」
その生徒は、大樹の姿を認めると、カッと顔を赤く染めて魚のように口をあわあわとさせた。大樹は少しの間待ってみたが、返答は得られなかった。これもよくあることで、大樹は気にした様子も見せずクラスを見渡した。クラス中から視線が矢じりのように突き刺さる。
それをあっさりとはねのけながら、
「いねえのかよ……」
つまらなそうに吐き捨てると、興味をなくしたように来た道を戻る。どこかで行き違いになってしまったのか。階段までくると、目的の人物を見つけ、彼は笑みを深くした。
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