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ヒーロー計画35
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「クソがっ」
匡は乱暴にドアを開けて食堂を飛び出す。残された大樹は、カードマジックのように手を翻す。すると、手に収まるようにしてチケットが現れた。
シンと静まり返っていた食堂に、クツクツと籠った笑い声だけが不気味に音を立てていた。
それからいくら探しても見つからなかいことについにはキレた匡が、へとへとになって疲れた様子を見せながらも、大樹の部屋のドアを壊さんばかりの勢いで叩く。大樹は悠々と本を片手にドアを開けると、彼を見下ろしながら問う。
「おう、諦めたか?」
「初めからお前が持ってたんだろ……」
こいつならやりかねない。匡はすぐに思い至らなかった自分に腹を立てていた。
「匡。お前にしちゃぁ、お利口じゃねえか」
大樹は、わざと匡を煽るようにチケットを目の前でひらひらと靡かせて見せる。大樹のしたり顔に、匡の強烈な顎フックが決まった。
「なかなかやるじゃねぇか……この俺に片膝つかせるなんてなかなかできるもんじゃないぜ」
「うるさい、黙れ」
脳天を揺らされて、頭を押さえた大樹が負け惜しみの一言を放ち、匡から絶対零度の視線を受けて沈黙する。
床に落ちたチケットを拾った匡は、踵を返すと自身の部屋から鞄を取りながら時刻の確認。
搭乗時刻から2分進んだ携帯電話の時計表示を無言で睨む。
「だから、諦めろって言っただろうが?」
いつの間にか後ろを取っていた大樹に、匡が殴りかかる。
それを簡単によけながら、ニヤニヤと笑みを浮かべる大樹のなんと嬉しそうなことか。そのまま匡の手首をつかむと、反転させて膝を折って床にねじ伏せる。
「俺は、嘘はつかねぇんだよ。いい加減、学習しろ」
胸を圧迫され、うめき声しか上げることのできない匡が、大樹に鋭い視線を向ける。
しかし、驚異的な力で押さえつけられているのか、ビクともしない。足をバタつかせてみても大樹は泰然たる態度を崩すこともなく、匡がひとしきり暴れたのち動かなくなってからようやく手を放した。匡は立ち上がることはせずうつ伏せになったままだ。沈黙は長くは続かない。匡が口を開いた。
「……俺の母親は俺たち兄弟を女手一つで育ててくれたんだ。そりゃ、途中から今回結婚する相手が父親代わりになってくれてはいたけど、忙しいから毎日いるわけじゃない。いつも自分を犠牲にしてまで俺らを育ててくれた母親の晴れ舞台、俺が見ないわけにはいかないだろうが……家族が俺にとって一番。お前は、どうか知らないが、俺にはそれが当然のことなんだよ」
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