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ヒーロー計画51
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「別に」
「別にってことはないだろ。何なんだよ。気持ち悪ぃ……腹でも壊したか? 自分で作っといてなんだが、どう考えてもそれ、食べていいもんじゃないと思う」
匡の停止の言葉にも、大樹は食べる手を止めることはない。
「あいつに責任もって食うって約束したからな……」
「は? いや、いいって。そりゃ、食べもしないでさっさとあいつらに残飯処理押し付けたのは腹立ったけど、そんな無理して全部食べられても嬉しくないって。それで寝込まれたら逆に気分悪いし……」
本気で嫌がる匡に、大樹は手を止める。フォークが皿に落ちて、音を立てた。
「……俺は、何が足りないんだ……」
「は? ……何が」
大樹の見上げた顔に、匡が困惑したように首をかしげる。折れてしまいそうな頼りなさげな声音に、情けなく八の字に垂れた眉。今にも泣き出しそうな揺れる瞳。
「俺はヒーローになりたいんだ……」
「知ってるよ。だから、俺を無理やり、」
「違う。違うんだ……俺が目指してたのはもっと――」
俯き、ブツブツと呟きながら自分の殻に籠ってしまった大樹を、匡はしばらく黙ったまま見下ろしていたが、
「意味分かんねえっ!」
大樹から皿をひったくる。その勢いで中身がこぼれて床にぶちまけられた。
「…………」
「……あ、悪い。後で拭くから。――って、そうじゃなくてっ! いいか、何をいきなり落ち込んだのか意味が分からない。別に分かりたいとも思わないが、俺が気まずくなるから落ち込むな。それと、食べ物は粗末にしたらダメだって言うけど、どう見てもこれは食べ物じゃねえ。ただの暗黒物質だ。よって、これは捨てる。もう、食うな。俺が許す。反論は認めないからなっ」
きっぱりと言い放つと、次々と皿にのったものをゴミ箱に捨てていく。それを唖然と見ていた大樹がハッと我に返った。
「な、にしてんだ。俺は約束を、」
「うるせぇっ。そんなもんに拘束力はない。それに、季はそんな意味で全部食べろって言ったわけじゃない。心意気だよ、心意気」
「訳が、分からない」
「お前の思考のほうがよっぽど分かんねえよ」
「どういうことなんだ?」
「だから季は、俺がお前に料理を食べてもらえないことで悲しんでるって勘違いして、まあ、勘違いってわけでもないけど……とにかく、あいつは俺のために怒ってくれたんだよ。俺はそれですっきりしたし、お前にあれを全部食べてほしいわけでもない。“約束は守らないといけません”なんて、小学校の学級目標みたいなもの。義務感みたいにやられてもこっちは嬉しくもなんもないからな」
「……分からない」
季にあって自分にないもの。季は匡を笑顔にさせるのに、自分は負の感情ばかり彼に抱かせている。何が原因なのか、匡の言葉の意味も分からない。出会ってから今まで、分からないと目を背け続けた結果、彼がとても遠いところにいることに気が付いた。
大樹は、完全無欠だと信じていた自分を初めて恥じた。そして、自分自身が季に対して敵わないと感じていることを自覚した。
「正義の味方って何なんだ?」
匡に向けた言葉ではない。それが分かったのか、彼からの返事はなかった。
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