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ヒーローとは3
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「お、おいっ。匡!? どうしたっ」
突然意識を失った匡。ベッドに仰向けで倒れ込んだ彼に、慌てて大樹が覗き込んだ。息はしている。
「なんて人騒がせな……」
自分のしたことを棚に上げ、胸をなでおろしていると、突然カッと匡の目が開いた。驚き身を引く大樹。が、匡に肩を両手で掴まれそれ以上前にも後ろにも動くことができない。それ以前に動揺で身動きが取れない状態に陥った。ベッドに尻をつけたまま、大樹は匡を見上げた。
「おい、匡っ。何する気だっ」
大樹の制止の声も聞こえてはいないようで、匡は焦点の合わない瞳を揺らしながら徐々に距離を縮める。彼は眼前まで迫ってきていた。大樹は何をされるのか悟り、ギュッと目を閉じた。酒の弱い者がすることと言ったらこれしかないだろう。完全なる大樹の偏見による妄想が彼の脳内を駆け巡り、それから数秒。何のアクションも起きないことに焦れた大樹が薄目で様子を窺おうとしたとき、先に行動を起こしたのは匡だった。
――ガブリッ。
予想と違う擬音が大樹の首元から聞こえ、そしてジンジンした痛みがやってきた。ようやく目を開ける。
「キス、じゃないのか……」
首筋に顔をうずめた匡の後頭部を見ながら、大樹は呆然と呟いた。酔ってキス魔になる匡を想像していた彼は勝手に呆気にとられる。
力いっぱい噛みつかれているわけではないが、甘噛みほど弱くもない。特にMっ気があるわけではないので無理やり彼を押しのけると、今度はあっさりと離れていき、再びベッドの上で仰向けになると静かに寝息を立てていた。
腑に落ちない大樹だが、首筋を押さえながら鏡の前に移動する。後が残りそうな歯形がくっきりと浮かんでおり、絆創膏で隠せるような大きさでもない。
「さて、どうしたものか?」
首筋をマジマジと見ながら指で歯形をなぞる。ここまで見事な歯形も珍しいと感心していた大樹だったが、ふと、数秒までの自分の妄想を思い出した。匡にキスされると思って覚悟した自分。キスではなかったことをがっかりした自分。そして、噛みつかれたことにそこまで嫌だと思わなかった自分。
大樹は、パッと首筋を手のひらで覆うと鏡を真正面から見据える。耳まで顔を赤くさせた自分が情けない表情で立っていた。
「…………」
大樹は、錆びついたロボットのようにぎこちない動きで回れ右をすると、部屋の明かりを消し、音を立てないように外へ出た。
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