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聞いてしまった告白2
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片平は、今すぐそこから逃げ出したい衝動に駆られた。永海が少女の告白を受けても受けなくても、片平は嫌で嫌でたまらなかった。
その負の感情の意味は、いまいち自分でも理解していなかったが、盛大に音を立てて去ってしまうほど焦っていたのは確かだった。
けれども永海は、そこを振り向くことはなかった。おそらく、振り向かずとも解っていたのだろう。誰かがそこにいたことも、既にその人物がここを去ったことも。
彼は女子生徒の目を見つめて言い放った。
「ごめん」
イチョウの葉が、風に吹かれてさわさわ揺れる。
それはまるで、少女の心境を表しているようだった。
「俺、好きな人がいるから」
「……もしかして、片平くん?」
女子生徒の問いに、永海は頷きで返した。
「告白の噂、本当だったんだ」
「ああ。振られたけど」
「それでもまだ、好きなの」
「もちろん。諦めてもいない」
きっぱりとした永海の物言いに、女子生徒は涙をこらえてぎこちない笑みを作った。
「そっか。聞いてくれてありがとう。また明日ね」
ひらり舞い散るイチョウの黄に紛れて、少女は去る。永海は胸をずきりと痛ませながら、これで良かったのだと自分に言い聞かせていた。
翌朝、永海は片平の家の前にいた。パールグリーンに塗装された2階建ての家の周りには、桃色のコスモスが上品に咲いていた。
玄関のチャイムを鳴らすと、出迎えてくれたのは片平の妹だった。これから学校に行くのだろう、赤いランドセルを背負っている。
「あ、お兄ちゃんのお友達の……ええと」
「永海証、ね。お兄さんは、まだ寝てるのかな」
「準備は出来てるんだけど、今日は1人で行く気だったみたいです。だから、まだのんびりテレビ見てますよ」
「そっか。とりあえず、呼んで貰える?」
「はい。お兄ちゃーん、永海さん来てるよー」
片平の妹は身をよじり、奥にいる兄を呼んだ。
「いないって言っといてー」
返事がこれだ。なんと間抜けなのだろう、この男は。永海は彼の妹と共に脱力してしまった。
「遼太ー、聞こえてるから。出てきてくれないか」
いつもより低姿勢で言ってみたのは、彼の家族の前だからだろうか。呼ばれた片平は、これ以上強情を張るのも恥だと思ったのか、意外にもあっさりと姿を現した。
「行ってきます」
片平は妹にぶっきらぼうに言い、後ろ手に扉を閉めた。
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