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妄想教師の作り方。
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そもそも。
教師なんてなりたいと思ったことはなかった。憎しみすら持っていた職業だった。
幼い頃は作家になりたいなんて思っていたし、大学を進学したころは休みがなくたっていい、出版会社に身を置き、将来的には作家の担当になりたかった。
要は文学の産まれるそばに居たかった。
なんていうウツクシイ志は、『一応』とっておく教員免許のために行った教育実習で、覆されてしまった。
その要因のひとつは、思ったよりも生徒を可愛いと思える自分がいたこと。なんてことないような顔で過ごしながら、その一瞬に生きる子どもたちを決して、厭うてはいない自分がいた。
かつて地獄だと思っていた場所は立場が変われば違って見えた。
もうひとつは、教育実習先での未知との遭遇だった。こっちの方が日常生活への影響力が大きかった。
それは元男子校という腐女子の楽園。
男子9に対し女子1という比率は逆ハーレム的な妄想を抱かせるものと思っていた。
それが、だ。
実際の女子在校生のほとんどが。
「ホモぷまい」
だった。
―——なんだそれ。
そう思っていたのも束の間で、彼女らの想像の端に触れただけで自分の中にあった何かが開花し、教育実習から戻ったころには文学小説の悉くに腐ィルターがかかった。
むしろ自分の網膜に腐ィルターが搭載されてしまった。
―——ホント凄いと思うわ。あの熱。
彼女らの中では『K』と『私』は『娘さん』をめぐって三角関係を形成するのではなく『K』と『娘さん』が『私』をめぐって熾烈な三角関係を形成した挙句、『K』は自害することで『私』の中に居座り続けるという病み設定。
溺死したカムパ○ルラは初め思いを寄せるジョ○ンニを道連れにしようとしたがその愛ゆえに自分だけ死者の国へ向かうという悲恋設定。
自分がそんなものに興味があるなんて思っていていなかったから余計。
だって、夏/目/漱/石から宮/沢/賢/治から古典文学までありとあらゆるものが朔良の中で違った輝きを放ち始めた。解釈ひとつでここまで変貌するとは思ってもいなかった。そんな自由な発想に触れたいと思ってしまった。
それでも端から卒論が三島だったあたりに、自分にも片鱗があったんだろうけど。
「……つまり、西洋では陰鬱ともとられがちな『影』に日本人は古来から魅力を感じていたわけだ」
1年生の授業で説明文を指導しながら、脳裏に浮かぶのは行燈の暗い光源の中で淫靡に絡み合う二体の裸体。白いチョークで黒板に板書しながら白濁の散るさまを妄想する。
まさかの教材妄想。歴極めて来ればなんでだって妄想できる。
NLじゃここまで燃えないんだ。男同士っていう変な禁色めいた感じが妄想に拍車をかける。
「華村先生、そこ、字が間違ってます」
その結果、1年生に誤字指摘されちゃう。
「あ、ごめん、うっかり」
見え透いた嘘で笑いかけてごまかす。
指摘した生徒はすっと目をそらす。
―——そういえばこの間もこいつに指摘されたな。
なんて、着任からひと月くらいの副担任じゃこんな認識。
―——逃げる視線を無理やり合わされていたされちゃうっていうのもネタとしてはおいしいな。
こんな風にまったく意に介さないのも問題だと思う。
でも、妄想するだけなら自由だし、実行に移す気はさらさらないから問題ない。
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