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授業丸一時間分ある生徒総会という名の全校集会は月に一回は必ずある。一つの場所に全学年集まれば、幾ら広いとされている講堂も狭く感じるし、むさ苦しい。講堂内の端に大型扇風機が四台ほど設置されているが、それらは中央にいる俺たちにすればなんの意味もなさない代物だ。扇風機の近くにいる奴は羨ましい。あっちぃなぁ、と呟きながら、未だ始まらない集会をまだかまだかと壇上を睨みつつ待機していた。
「おい、お前なんで隣にいんだよ」
「モブ山くんに変わってもらっちゃった」
もらっちゃった、じゃねーだろ。自分の席戻れよ。名前の順で並んで座っているのに、間宮だけは自由な奴で、なにを好んでか俺の横にちゃっかり座ってやがる。先生に見つかって怒られろ、と思うが先生もなんだか忙しそうに走り回っていて間宮どころじゃないらしい。
「……かな」
「あ、まこ。エマと席近いんだ」
前からクラス順に横一列に並んでいて、紫月くんは一組なので俺らの前にあたる。しかも、紫月くんと俺は名前の順が近いらしく俺の右前、ちょうど間宮が座ってる席の前が紫月くんだった。俺たちの話し声が聞こえたのか紫月くんが振り返って声をかけてきた。俺は右前が紫月くんだってのはずっと前から知ってたけど、一度も振り向いてもらったことなんてないぞ。
「ここさぁ、ちょっと暑苦しくない? サボろうかな俺」
「……俺も付き合う」
「さすがに今からは無理があるだろ。てか、やれるもんならやってみろよ。出口に会長の親衛隊いるみてーだから、サボりが分かったら反省文コースだぞ」
「げぇ」
間宮が手で顔を仰ぎながら嫌そうな顔をする。気持ちは分かるが、お前らだけ良い思いさせてたまるか。
俺も本来なら間宮と同じ、こんな暑苦しい場所で大人しく傾聴するタイプじゃない。全校集会とはいえ、抜け出す機会なんて幾らでもあるのだ。現に集会と名のつくものは、入学式を除いて全部ボイコットしている。それなのに、今回、こうして大人しく席に座っている理由。それは──。
ブーッとブザーが鳴り、集会が始まる合図のアナウンスが入る。幕が開き、壇上にパッと照明が当てられた。ただの集会のくせになんとも仰々しい。
ひな壇を登り、壇上に上がる生徒はよく見知った顔だ。背筋を伸ばし凛々しく前を向き、演台のマイクに向かって声を発した。
「本日は月末の生徒総会に集まって頂き──」
恒例の挨拶を淡々と述べるのは我ら東高を代表する鳳会長様だ。なんというか、久方ぶりにみる会長の姿だった。実はというと、あれから会長には全くと言っていいほど会っていないのだ。会長の行動に警戒はしていたが、避けていたわけではない。考えてみれば、会長とは学年が違うのだ意図して会おうとしなければ会うことなんて早々無いのだ。それに、今まで会長と過ごして来たのだって会長からの行動。会長が俺に会おうとしなければ学校で顔を合わせることなんて無い。つまり、何が言いたいのかって言うと。
──会長は俺を避けている。
「……間宮さ、ここ一週間の内に会長に注意されることってあった?」
「んん? 殆ど毎日の様に言われてるけど、それが何?」
毎日……、そうか、毎日。自分で聞いといてあれだけど、何だか癪に触った。間宮には毎日注意するぐらい会ってるくせに、下僕だとかなんとか言ってた俺には学校ですれ違うことも無いくらいに徹底して避けてるわけ。
ふーん、あっそ。
「んん〜? どうしたのエマ。ちょっと機嫌悪いみたいだけど、もしかして会長のこと気になってるの? いっけないんだ、エマには姫路先輩っていう可愛い彼女がいるのに目移りしちゃって〜」
「あ? 黙れよ間宮」
「……おい」
間宮の軽口に苛立って、険のある物言いになる俺を牽制するように睨む紫月くん。そりゃ、俺から間宮に聞いといて勝手にむしゃくしゃしてるだけだけどさ。それプラス講堂内が暑いのと、誰に睨み効かせてんだよ、と苛立ちも含めて紫月くんを睨み返す。より険悪な雰囲気が俺たちを纏い、空気をさらに重たくさせるが、紫月くんの後ろの先。壇上の人物の様子に目がいき交戦は中断された。目を凝らしてじっくり見る。
「顔色悪ぃな……」
「ん? 誰が?」
俺の呟きを拾った間宮が俺の視線の先に目をやって、「もしかして会長のこと?」と聞いてくる。会長の顔が照明に照らされてるからといえ、不自然に青白い気がするのだ。視線も前を向いているくせに、僅かに覚束ない。ほんの些細の様子だが本調子じゃなさそうだ。
「へぇ。視力良いんだね。片目隠れてるくせに」
「今それ関係ないだろ」
「ここから会長の表情なんて分からないぞ」
紫月くんのいう通り、一年の席は講堂の一番後ろにあるため、会長の細やかな表情なんて分からないだろう。でも俺の場合、片目は前髪で隠れているが視力はなんと両目とも2.0だったりする。よく凝らして見れば、会長の様子も見て取れる。
今のところ、文章もちゃんと読めているし問題は無さそうだけど。……大丈夫だろうか。
「会長のお爺様、あんまり体調がよろしくないんだって」
どこからともなく聞こえてきた話し声にピタッと動きが止まる。
「こんな事言うの不謹慎だけど、もしお爺様が亡くなられたら継承がお父上に代わり、会長も本格的に帝王学を学ぶそうよ。なんでも今度の会長の引き継ぎ式が終わったら、海外へ留学するってさ」
「え、卒業は?」
「さぁ、一足先に済ませるんじゃないかな。もう留学先も決まってるって噂だし」
会話は紫月くんの斜め前、通り道を挟んだ先にいた二年の女子達から聞こえてきたものだ。本人達はヒソヒソ話をしているつもりだろうが、こう静かな場所だ、割としっかり聞こえた。てか、一字一句聞き逃しませんでしたけど。間宮も聞こえたらしく、神妙な顔をしている。
俺と間宮が顔を見合わせたその時、ドタンッ!と何かが倒れる音と、キーンとマイクがハウリングする音が耳を劈いた。慌てて音のした方に顔を向けると、演台に凭れかかるようにして倒れている会長の姿があった。講堂内は騒然としていて、慌ただしく生徒やら先生達が壇上に駆け上がっている。
会長が倒れたことにより、集会は一時中止。講堂内に残された生徒はざわついている。
先生達によって、会長がよろめきながら入り口から出て行こうとするのを目撃し、暫し考えた後席を立った。
「……腹痛くなったから便所行ってくる」
「は? 嘘、ちょっと、エマ!?」
「ついてくんなよ変態!」
制止を掛けようとする間宮に振り向かず、言うが早いが出口を目指す。会長が倒れたのだ、親衛隊も手薄になってるはずだからすぐに外に出られるだろう。
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