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ついに、ついに! 来てしまった……!この時が!
俺は今、必勝! と書かれたハチマキをし、教科書を片手に祈りを捧げていた。
「テスト始まるねぇ、エマ。って、死にそうな顔してる。ウケる」
その、ウケるって何だよ。こちとら真剣だっていうのに余裕綽々な顔しやがって!
「話しかけんな覚えてるもん全部飛ぶ」
「はいはーい。ほどほどに頑張ってよ」
「……ん」
まぁ、あいつなりに応援してくれてるようではあるらしい。
この一週間、そりゃあもうみっちりと詰め込んだ。学校でも勉強、家でも勉強、飯食う時や風呂の中でも勉強する俺に、弟の麗実が珍しいものを見るかのような目をされたが。そんなに俺が勉強していることが異様か? いや、自分でもありえない事だとは自覚しているが。やれることはやってきた、ではいけないんだ。実際、やらなければならない。チャンスは一度きり。迷いは負の感情は一切ない。俺は出来る。絶対に、学年一位になってみせる。
断じて、徹夜明けテンションでハイになっているわけではない。
「テスト五分前だ。席に着け」
試験監督が教室に入り、勉強道具を鞄にしまう。
机の上にあるのは、消しゴムとシャーペンが二本、あとシャープペンの替芯。
教室の時計が一刻一刻刻む音がよく聞こえた。試験一分前に、問題用紙が配られ息を飲む。
高鳴る心臓を落ちつかせるよう深呼吸を繰り返す。
「大丈夫、落ちつけ、俺は出来る。やれば出来る……」
某CMのキャッチコピーをひたすら小声で呟き、時を訪れるのを待った。
五、四、三、二………一!
「試験、始め!」
試験監督の合図で問題用紙を表に向ける音が教室中に一斉に響いた。ガッとシャープペンを握り締め、今! 俺の戦いが始まった!
間宮は斜め前に座っている咲舞の背中へと視線を向けた。いつもならテストが開始したところで、人よりゆったりとしたスピードでマイペースに問題用紙を開示する咲舞だったが、今回は物凄い勢いで問題に取り組んでいる。その様子からは必死さが伺える。間宮は手元の問題用紙に目を落とした。一限目は数学。間宮にとって、なんてことない計算式はさっと目を通しただけですぐに答えにたどり着ける。しかし、一般的に見れば難易度の高い問題ではある。さすが、勉学に力を入れている進学校だ。天才型の間宮はさておき、全国模試で常に上位であるといった賢い生徒はこの学園には多くいる。
それらを凌いで咲舞が学年一位になる。
正直、入る学校間違えてんじゃない? と思うくらいに咲舞の成績は目も当てられないものだ。せれが学年一位なんて、夢のまた夢、到底叶いそうにないことだが、咲舞の頑張りをここ一週間見てきた。勉強の出来ない咲舞が、どうしてここまでやる気なのか。見当は大方ついている。
「一生懸命だなぁ、エマ」
間宮は小さく呟いて、ふっと笑った。試験中なので静かに。間宮の呟きは誰にも聞かれていない。緩慢な動きでシャープペンを手に取り、間宮も試験問題へと取り組み始めた。
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