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-22- 紫月 真
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ひたすらに誤算だった。いつだって思い描いていた通りにはいかない。
三年越しの片想いも、ポッと出の得体の知れない奴によって掻っ攫われた。長い間積み上げてきたものを一瞬にして崩された気分。ずっと欲しかったアイツの興味も関心も、上野は糸も簡単に手に入れたのだ。それがどんなに悔しいことか知らないだろう。憎らしい、その感情がこれ程までにも大きくした。
しかし、そんな感情も全て、上野は見透していた。いつから気付いていたのか、もしかすると最初からかも知れない。そう思ったのはあいつの目を見てしまったからだ。感情の失った目に映し出されていたのは、酷く惨めな自分の姿。
あいつが言った言葉の意味を理解した瞬間、身体中があつくなって吐きそうになった。まるで心臓を取り出されてずっと前から観察されていたような錯覚。
姫路の事だって仕向けられたものだと薄々感じていながらも、黙っていたのだろう。いつかこうなる事を予想して、それまで一人高い所から静観していたのだ。……なんて奴だ。馬鹿な奴と軽んじていたのに、実際はそうじゃなかった。
これなら怒鳴り散らして殴ってくれた方が随分マシだ。なのに、アイツは怒鳴りも殴りもしない。一瞬昂った感情は見えこそはすれ、上野は俺じゃなく本棚に拳をぶつけた。それはまるで俺には殴る価値もないと言っているようだった。 唯一、上野は俺に背中を向けることで完全に見限る事をしなかったのだろう。──俺がかなに対する感情を思って。
「かな」
呟いてみても、返事はない。本人がその場にいないのだろうから当たり前の事だが、それでも返ってこない返事に少し泣きそうになった。
名前を呼ぶ度に、いつだってこのどうしようもない感情が口から漏れ出てかなに伝わりそうになる。それはだめだ。だって、気持ちを伝えたらかなは俺から離れてしまう。
ははっ、と渇いた笑みが溢れた。
こんな馬鹿な計画を立てるくらいかなのことを好きでいるのに、素直に気持ちを伝えるのが怖いなんて滑稽な話だな。
ぼんやりと宙を眺め、ふとスマホを取り出す。二、三度操作し画像フォルダーを開いた。そこに映し出されたのは、夜の繁華街を背景に所謂ラブホに入っていく二人組のカップル。だろうか、とりあえずその内の一人はさっきまであった顔だ。
最近のカメラ機能は凄い。暗がりでもバッチリ撮れている。だけど、もう俺には必要ない。
すぐ下にあるゴミ箱のマークに指を持っていき、フォルダー内から完全に消す。一瞬だけ、画像に写っているこの男を心から心酔している危篤な奴に見せてやれば良かったと残念に思った。まぁ、とりあえずは伝えたから、いいだろう。後は俺の知らないところで勝手にやってくれ。あわよくば、別れて学園のアイドルを傷付けた罪とかナントカで罰せられたらいいのに。
……どうせ思い通りにはいかないんだろうけど。
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