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人の居ない教室で聞こえてくるのは、外にいる運動部の声と嫌に大きく聞こえる秒針の音。
チッチッチとまるで急かしているような音に苛立って、複雑に入り乱れる数字の書かれたプリントの端をくしゃりと握り潰した。
「あーだめだ。もう無理、わっかんねぇ〜」
持っていたシャーペンを転がし、机に突っ伏す。補習が始まって一時間、渡されたプリントの三分の一も進んでいない。
「終わらねぇと帰れねーし、腹減ったし死にそう」
ぐうう、と腹の虫がさっきから鳴りっぱなしだ。俺、なんで補習なんて受けてるんだろう。あっ、赤点取ったからか。平均点87点のテストで俺だけ2点だったもんな。2点て、何。逆に何が当たったのって聞きたくなるレベルだよ。
「……これは流石に酷いな」
「いて!」
声を掛けられ反応する前にぽかっと頭を叩かれた。誰だ、と顔を上げると目の前に立っていたのは会長で。筒状にした教科書を手に呆れた目を俺に向けている。
「えっ、なんで会長が」
「間宮にお前が補習を受けていると聞いてな」
間宮、あいつ何勝手に会長に補習のこと話してんだよ!でもナイス!! たまには良いことするじゃねぇか!
「それにしても、既に終わらせて帰っていると思っていたが一枚もプリントを終わらせていないとは」
「うっ……」
「それと間宮から聞いたが、2点だったそうだな」
「あいつ何余計なことまで口走ってんだ!!殺す!!」
ガタッと席を立とうとする。が、その瞬間頭を鷲掴みにされた。
「座れ」
「ふぁい……」
なんて恐ろしい形相。チビるかと思った。
「こんな簡単な問題も解けないなんて、一体授業で何を聞いていたんだ?」
プリントをさっと見た会長はため息混じりにそう言う。
授業ちゃんと聞いてたからって問題解けるかどうかは別なんじゃ……と言いかけた俺にギロッと睨まれる。どうやら俺が授業中寝てたりサボッていたりしたことをご存知のようだ。
「自業自得の点数だろ」
「……なにも言い返せません」
あれ? でも、俺と同じくらいにサボッている間宮は何で補習受けてないんだ?
「知らないのか。間宮は今回のテスト満点だぞ。因みに入試の時も全教科満点で合格したそうだ」
「はああああ!?」
あいつあんなチャランポランなのに実は秀才だったって何ソレ!?
嘘だろあり得ない……。あと、何で会長はナチュラルに俺の心読んでるの?
「お前の考えていることなんて顔を見ればすぐに分かる。それより、まず目の前のプリントをどうにかするべきじゃないのか」
「うぐっ……。そうなんですけど、全然分かんなくて」
このプリントがスラスラ解けるならとっくにプリントの山は片付いているし、まず補習なんて受けていない。
て言うか、教師! プリントを渡すだけじゃなくてちゃんと解けるように教えろよ!
「これぐらいの問題、解けるのが当たり前だ。いちいち一人の生徒の為に付き合ってるほど教師も暇じゃないだろう。それにその為に塾があるのだろう」
「それさっき本人に言われた」
教師が塾を勧めるなんて驚いたけど。だからって塾なんて行かないけどね。だってバイト行けなくなるじゃん。
「まぁ、」
会長は椅子を引いて俺の目の前に座る。
「お前のその壊滅的な成績は塾の講師もお手上げだろう。特別に俺が代わりに教えてやろう。俺の犬が本当に馬鹿だと示しがつかないしな」
あ、会長の中で俺が‘‘会長の犬”って言う肩書き無くなってなかったんだ。
一日経っても何もないから夢かと思っていた。
「最初に言っておくが俺の指導はスパルタだぞ。今の状態のままその場に座っていられると思うなよ」
「えっ、それってどう言う……ッ!?」
ビュッと風を切って目の前に突きつけられたソレは、よく削られて先が尖った鉛筆だった。
右目に触れるギリギリ、あと5mmといったところだろうか。ちょっとでも会長が動いたら本当に俺の目を鉛筆が突きそうで、黙ったまま息すらも出来ない。
俺に鉛筆を突き付けた会長が微動だにもせず、口だけを開く。
「無駄口を叩くな。授業はもう始まっている」
やばい。会長の目が夏を迎えた受験生を教える塾講師の目と同じ、いやそれ以上だ。
とにかく会長に変なスイッチが入ったことが分かった俺は、生まれてはじめて塾に行けば良かったな、と思うのだった。
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