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5月18日(月) 二匹の番犬
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授業終わりの放課後。
「じゃあ頼んだぞ、美渓」
「はい。失礼します」
用事があって職員室へ行った僕は、先生に頼まれてノートの山を運ばされていた。
「……」
積み上がりすぎて、前がよく見えない…。
目的地の物理準備室は三階。
ひとつ上の階まで、階段で行かなければならない。
…人にぶつかっちゃいそうだな。
僕はなるべく人気の少ない階段を上った。
遠回りになるけど、人に迷惑をかけるくらいなら───。
「───あっ」
「うわっ」
そう思っていた矢先、早速人にぶつかってしまった。
階段の踊り場で、ノートの束をぶちまける。
「ご、ごめんなさい!」
僕は慌てて謝り、顔を上げた。
「いや、俺こそ」
そこに立っていたのは、1組の雪町 奏士くんだった。
「あ、雪町くん…」
意外な人影に、思わずぽかんと口を開けてしまう。
「?」
雪町くんはきょとんと首を傾げた。
「すごい量だな」
床に散らばるノートを見て、しゃがんで拾ってくれる。
「あっ、ごめん…ありがとう」
僕もその場にしゃがみこんで、ノートを拾った。
ふと、雪町くんを見る。
…隣の部屋だけど、僕のこと覚えてるかな。
柊と一緒の時、何度か会ってるけど。
「?」
僕の視線に気づいた雪町くんと目が合う。
「あの…僕の名前、覚えてる?」
「え…?」
唐突な質問に、雪町くんが目をぱちくりさせた。
「ごめん、変なこと聞いた」
僕はぎこちなく俯く。
「覚えてる」
ノートを半分ほど拾って、雪町くんが立ち上がった。
「美渓 雛貴」
遅れて僕も立ち上がる。
「……」
顔上げて見た雪町くんの顔は、とても綺麗だった。
初めて見る、微笑んだ顔。
「…雪町くん、話しやすくなったよね」
「え?」
「前までは、なんか話しかけづらくて…」
そこまで言って、僕ははっと言葉を止める。
「ごめん!失礼なこと…」
「いや、いい」
失礼なことを言ったのに、雪町くんは笑った。
「話しやすくなったなら、多分あいつのせいだ」
「…柊のこと?」
雪町くんはこくりと頷く。
「あいつが鬱陶しいから、人と話すのに慣れた」
照れくさそうな彼の様子に、僕は思わず笑ってしまった。
「良かったね」
「…ノート、運ぶの手伝う」
「いいの?ありがとう」
肩を並べて、僕たちは物理準備室へ向かう。
角をひとつ曲がると、三年生の教室があった。
───しまった。
遠回りをしたせいで、三年生の教室前を通らなくてはいけなくなった。
「……」
どうしよう、雪町くんは三年生にもその名が知れ渡っている。
高確率で絡まれる───
「───あっ、雪町だ!」
…ほらやっぱりー!!
「何してんの?三年生に用事?」
背の高い三年生たちが、僕たちを取り囲む。
いや、彼らの背が特別高いんじゃない。
僕ら二人の背が低めなのだ。
「…物理の、ノート」
「それ運ぶのは後にしてさ、俺らと話そーぜ」
雪町くんは露骨に嫌そうな顔をする。
先輩たちは物ともせず、滅多に話す機会のない雪町くんを引き止めにかかった。
「隣の子はお友達?こっちも可愛い顔してる」
先輩は、隣にいた僕にも興味を示す。
「黙れ」
僕が戸惑う暇もなく、雪町くんが一歩前へ出た。
「邪魔だ、どけ」
「……」
雪町くん、意外と口悪い…。
先輩相手でも全くへりくだろうとしない姿勢に驚く。
…慣れてるのかな。
などと思うのは失礼だろうけど、雪町くんならありえる。
「ちょっと相手してくれたらどくからさ」
薄笑いを浮かべた先輩たちが、さらに雪町くんに詰め寄った。
「っ…」
その時、聞き覚えのある声がする。
「───おい」
透き通った低い声。まるで寝起きの紫鶴の声みたいだ。
「…紫鶴!?」
と思ったら、本当に紫鶴だった。
なんで紫鶴がここにいるのだろう。
「───雪町!!」
そして、紫鶴が来たのと逆の方向から、また声がした。
振り向いた先には、柊の姿がある。
───両側からなんか来た!!
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