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6月19日(金) 変化*
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「あ"あ"あああぁぁぁーー」
二人きりの生徒会室に、怜の大げさなため息が響く。
「俺はもうだめだ」
「……」
「後は頼んだ、時雨」
机に突っ伏していた怜は、すくっと立ち上がってソファに倒れ込んだ。
「寝るな」
予算の集計をしていた俺は、ちらりと怜を一瞥して自分の作業を続ける。
怜はすぐに、アホ面を晒して寝息を立て始めた。
「…はぁ」
───雪町が吸血鬼だと明かしたことで、学校での吸血鬼の立場が激変した。
噂に過ぎなかった迷信が、姿を現したのだ。
当然、生徒からの疑問が大量に教師と生徒会に寄せられる。
今まで吸血鬼への対応は、主に生徒会がしてきた。
輸血パックの配布や、飢えて生徒を襲った時の処分。
表立って行動できない分、教師に代わって暇な生徒会が秘密裏に吸血鬼たちを取り締まっていた。
それなりに、うまく吸血鬼たちをサポートしてきた。
…のだが。
「……」
作業を終えて、俺は怜の机のパソコンを覗く。
彼がさっきまで打ち込んでいた文面に目を通した。
内容はもちろん、吸血鬼について。
吸血鬼が人間と同じように生活するため、ここで共存を学んでいること。
人間に危害を加えないよう、制約を受けていること。
先生たちに頼まれて、怜が生徒会から全校生徒に配布する手紙を作っている。
「……」
書きかけで寝たのかと思っていたが、怜はきちんと書き上げていた。
俺は必要部数を設定し、印刷ボタンを押す。
すぐに、壁際に置いたプリンターが音を立て始めた。
「ん…」
怜はソファの上で爆睡したまま。
俺は彼の傍にしゃがんだ。
あまり気持ち良さそうな寝顔ではない、悪い夢でも見ているのだろうか。
眉間のシワを指の腹で撫でてやると、少しだけ顔が穏やかになった。
「…怜」
呼びかけても、長い睫毛はぴくりともしない。
光を浴びて透ける金髪を、そっと撫でてみた。
…全然起きないな。
それだけ疲れが溜まっているという事だろう。
俺は前髪を指先で掬い、怜の額に口付けた。
「……」
無性に頬が火照りだす。
柄にもないことは、するべきではない。
「……っ」
そう思い、立ち上がろうとした俺の首にするりと腕が伸びてきた。
「起きてたのか」
「あんだけ触られたら、起きるだろ」
目を開けた怜が、口角を持ち上げる。
「…今ので終わり?」
挑発的な目が、俺を誘っていた。
「……」
俺は怜の顎をつかんで、雑に唇を重ねる。
「んっ…ぁ」
舌先を絡め、深く怜の口腔を舐めた。
その瞬間、プリンターから甲高い機械音が響く。
「……なに?」
「…紙が足りなくなったみたいだ」
不機嫌そうにする怜を放って、俺は立ち上がった。
棚から用紙を取り出して、プリンターの給紙トレイに突っ込む。
「しーぐれ」
後ろから、怜がのしかかってきた。
…やっぱり来た。
「離せ」
と言っても、離れないのは分かりきっているのだが。
「んっ…」
噛み付くみたいなキスをされて、なだれ込むように俺たちは壁際に座る。
「───……」
怜の口が動いた。
何か囁いたようだったが、プリンターの音に全てかき消される。
深いキスを重ねながら、俺たちは互いの昂りに手を伸ばした。
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