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6月26日(金) 駆け出す
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開会式が終わり、午前の部が始まった。
「あれ?仙座は?」
応援席に戻ってきた僕は、辺りを見渡した。
隣で、雛貴が首をかしげる。
「他のクラスのところに行ってるのかな…あ」
そして、思い出したようにトラックを指した。
「100メートル走に出てるよ」
雛貴の視線の先では、第1種目の100メートル走に出る生徒たちが整列している。
先頭の列に、仙座の姿があった。
「おおっ」
あいつ、1走目か。
得意げな笑顔で、仙座は真っ直ぐ続くコースを見据えている。
「……」
静まり返った運動場に、ピストルの音が鳴り響いた。
一気に辺りが声援で騒がしくなる。
放送部がかける音楽も相まって、いよいよ体育祭の始まりを実感した。
「仙座ーっ!!」
「いけーーー!!」
スタートダッシュを決めた仙座が、他の5人の一歩先を駆ける。
「うわ、あいつ速いじゃん!」
「瞬発力あるんだよ」
僕たちも少し身を乗り出して、仙座を応援した。
そのまま、仙座は1位を保ってゴール。
『体育祭最初の種目!1位を勝ち取ったのは東軍でーす』
放送部の声が運動場に響く。
東軍は、好調な出だしとなった。
「あぁー僕も早く出たい!」
「柊は棒倒しだから…次の次だね」
「次は何なんだ?」
「玉入れだよ」
そんな話をしている間にも、ピストルの音は何度も響く。
それぞれの軍に次々と点が入っていき、最終的に西軍の優勢で100メートル走は終結した。
「───仙座ーっ!おつかれ!」
「おーう」
退場門から応援席に戻ってくる仙座を出迎える。
「1位おめでとーう」
「結局、東軍負けてるけどな」
仙座は照れ隠しのように笑った。
トラックでは、玉入れが繰り広げられている。
雪町が出たいと言っていた競技だ。
たくさんの生徒たちが入り乱れて、ひとりひとりはあまり目立たない。
「…だからか」
「?…どうした、高原」
仙座が、隣の席に腰を下ろした。
「雪町って、目立つの嫌い…なんだよな」
玉入れから目を離さず、僕は続ける。
「僕のせいで、目立たせてるけど」
「そうか?」
仙座はきょとんと首を傾げた。
「雪町はあの見た目だし、おまえが来る前から目立ってたぞ」
「そうなんだけど…」
僕のせいで、騒ぎを起こしてしまったのも確かで。
「っていうかおまえ、そろそろ棒倒し、入場門に並ばないとだろ」
「うわっほんとだ!」
僕は慌てて立ち上がる。
「ちゃんと見とけよ、仙座ーっ!」
手を振りながら、僕は入場門へ駆けた。
この先に待つものを、知りもせずに。
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