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『馬鹿とバンドマン』② by.有木タリ
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問、今日は何の日?
答、クリスマスイブ!
でも学生は学校です。クッソ。
授業とか頭入らないし。俺の頭は目下、気になるアイツでいっぱい。授業中もほら、一番前の席の背中を見つめてる。穴があくくらいの熱視線で。
今日の予定、なんかあるのかな。
彼女はいない。これはリサーチ済み。
クラスの奴らとはあまりつるまないから、友達と集まってやいやい騒ぐとかもなさそう。
なんか、普通に家帰って家族と過ごしてそうだよな。っていう勝手なイメージな。
そしたら誘えば一緒に過ごしてくれるかな?彼女いない寂しいモンどーしで仲良く過ごそうぜ!って。
よし、授業終わったら声掛けよ。
ウキウキ。ワクワク。ソワソワ。
落ち着かない。浮き足立ってる。
こんなん初めてだ。
◇ ◇ ◇
「悪いけど、ライブあるから無理」
撃沈。
放課後思い切って声を掛けてみた。
もし予定なかったらウチ来ない?って。
さらりと返ってきた答えにがっかり。
「あ…平野、軽音部だっけ…」
失意に呑まれ、呆然としながら立ち尽くしていると、平野は鞄からピラ、と長方形の紙片を取り出した。
「暇なら見にくる?」
「行く!行く行く!」
思わぬ提案に一も二もなく食いつく。
平野が手にしていたのはライブのチケット。それを俺に渡して、平野はニヤリと不敵に微笑んだ。
「最高の夜にしてやるよ」
ナニソレ。ナンダソレ。反則だろ。格好良過ぎ。どうしてくれんの、俺のこの胸のトキメキを。不覚にもキュンとしちゃったでないの!
「19時から始まって、俺らは三番目のバンド。場所はチケの裏」
「おう…平野って楽器ベースだっけ?」
「そう。下手側に立つから」
「シモテ??」
「客席から見て、左側」
「あぁ!分かった。最前列でガン見してやっからなー」
はいはい、と言って平野は立ち去る。
その背中に向かって「また後でなー」と叫ぶと、ひらひらと手を振り返してくれた。
やべー。超楽しみ。
チケットを大事に鞄へしまい込んだ。
◇ ◇ ◇
チケットの裏の地図を見て、小さなライブハウスへと足を運んだ。地元の奴ならみんな知ってる場所だった。こんなところで平野はオンステージするんだ。すげ。
開始まであと10分位。
なんとか最前列に潜り込み、まだ誰もいないステージを見つめた。
ここに、平野が立つんだ。
はっきり言って、最初の二組の演奏なんか頭に残らなかった。
平野。ひらの。ヒラノ。
もうすぐ。あと少しで。
そればっかり。
ようやく前のバンドがはけて、次はいよいよ平野たちのバンドの出番。
最初にステージに姿を現したのはボーカル。続いてギター、ドラム。
最後に平野が出てきた。
一瞬で、目を奪われる。
真っ白。
平野は白のシャツ、白のスーツ、白のネクタイ、白の靴。全身純白に包まれてる。
黒いのはその髪と目と楽器だけ。
ステージ上の平野と目が合った。
あぁ、髪に隠してそんなにピアスあけてたんだ、なんてどうでも良いことを考えてしまう。
平野が笑い掛けてきて。
そこからもう目が離せなくなった。
ドラムの合図で始まった曲は、某ロックバンドの有名なナンバー。
指でリズムを弾き出す平野は、見たことのない顔で。
楽しそうで。
格好良くて。
眩しくて。
キラキラ輝いていて。
時間が止まったみたいに、俺は動けずにいた。
惚れ直した。
俺、平野のことまた好きになった。
◇ ◇ ◇
すっかりぬるくなった缶コーヒーを握りしめて、俺はライブハウスの出口で待ちぼうけしてた。いわゆる出待ち、ってやつ。
もちろん平野待ち。
「松居…?」
苗字を呼ぶ声に振り返れば、そこにはバンドメンバーと一緒に出てきた平野が。
「おっす。おつかれー」
ついでに他のメンバーさんにもお疲れ様デースと声を掛けると、うーす、とか、どもー、とかそんな返事。
「出待ちなんかしなくても、明日終業式なんだから学校で会えるだろ」
「や、 待てなくて待ってた」
ん?何か日本語ヘン。
どっちだよ、と平野も笑ってる。
でも本当にそういうこと。明日なんか待てない。すぐに会いたかったんだ。
「平野、この後の予定は…?」
「今日はこれで解散。帰るだけ」
お先ー、と口々に言い合ってみんなバラバラに散って行く。
俺と、平野だけが残されて。
「腹減らない?」
「え?」
出待ちの間に考えてた、一緒に過ごす口実を切り出す前に、平野が言った。
「俺は腹減った。これから食べに行くけど松居は?」
「いっ行く!俺も腹減ってた!」
願っても無いチャンス。クリスマスの神様は、俺に微笑んでるらしい。
適当に近くのハンバーガーチェーン店に入り、それぞれ注文してテーブルにつく。イブの夜はまだまだ人が多い。外もイルミネーションで明るい。
「平野。ちょー格好良かった。王子様みたいだった」
ガサガサとハンバーガーの包みを開けながら、素直に感想を述べた。思い出しただけでも鳥肌立つくらい、マジで格好良かったんだ。
「あれはスノーマン。王子様じゃない」
ドリンクのストローを咥えた平野は少し照れ臭そうに言った。
「雪だるま?あ、だから真っ白だったの?」
「そう。みんなクリスマスにちなんだ衣装。ボーカルがサンタで、ギターがトナカイで…」
平野ばっかり見てたからあまり印象に残ってないけど、そう言われてみればそうだったかもしれない。
「ドラムの人は?」
「プレゼントボックス」
「ぶはっ!だからリボンついてたの!?」
ステージに出てきた時に実は気になってた、首に巻かれたリボンの謎が解けた。
「んーでもやっぱ、平野が一番輝いてた。惚れた」
「大袈裟」
別に大袈裟じゃないんだよなぁ。本気で惚れてんだよ。どうしたら伝わるんだろ。
平野はそんな俺の気も知らないで、ポテトを摘まんでる。指に付いた塩を舐め取る仕草とか、いちいちガン見してんだよ俺は。
気付け。気付け。気付け。
「…何、欲しいの?」
ポテトを催促してるのと勘違いされたらしい。ハイ、と一本差し出された。
ちげーよー。でも折角だから貰っとこ。
平野に持たせたまま、ぱくりと食いつく。
モソモソと口に入れていって、最後に平野の指も食べてやった。
ポッキーの日(の翌日)に平野が俺にしたのと同じ事してやった。ささやかな仕返し。
「どーも、ごちそーさまです」
どうだ、参ったか。
「はい、どーいたしまして」
全然余裕そう…。
このまま永遠に気付いてもらえなさそう。どうしよう。
やっぱり、言うしかないのかな。
◇ ◇ ◇
「じゃあ俺あっちだから」
店を出てからぐるぐる考えてたら、もうバイバイの瞬間が目の前で。
何をどう伝えたら良いんだろう…。ちょっと待って行かないで平野。
「何?」
気が付けば、平野のコートの裾を掴んでいた。引き止めちゃった。引き止めたからには…後には引けないよなぁ。
「あのね、平野」
ヤバイ。口の中カラッカラ。心臓ひっくり返りそう。なんでこんな緊張すんの。
平野がこっち見てる。言葉の続きを多分待ってる。言わなきゃ。
「俺、平野のこと…す…すっ、す、す!」
言えねー!何これクッソ恥ずかしい!本気で照れる!もうやだ俺かっこ悪い…。
「松居、何泣いてんの?」
嘘、泣いてるの俺?あっ本当だ目から水がボロボロ…。マジかよ最悪だよ。告白もできないし、泣いてるし、なんなの。カスだよマジで。
「……そんなに俺の事好きなの」
そうだよ。好きだよ。悪いかよ。
「…え?」
え?なんで、好きなのって、分かって…。
「お前、分かりやすいよね本当」
なんだよぉソレ…!超恥ずかしい死にそう死にたい!雪に埋れて凍死するね?!
「俺も、松居の事好き」
だよねだよねー残念でした、俺乙!
平野が俺の事好きなわけ………わ、け…。
「ひら、の…」
嘘、嘘、嘘。幻聴?妄想?夢?
とうとう俺イカレたんですか?
「両想いだけど、どうする?」
両想い。
平野の口がそう言った。これは現実だ。
「う…っ、つ、づぎあっで、ぐだざい」
「うん、いいよ」
涙と鼻水でぐっちゃぐちゃの格好悪くて情けない俺に、平野はとびきり格好良い素敵な笑顔を向けた。
サンタさん、どうもありがとう。
最っ高のプレゼントです。
【終】
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