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『繋がった空の下でメリクリ』① by.ぷにこ
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この春、俺は東京へ就職する。
小さな印刷会社だけど、問題児だった俺が就職するということに担任はまるで我が子のように泣いて喜んでくれた。
そんな今日もバイトの帰り、原付バイクに乗って自分の家とは違う方角へ進んだ。
街頭の灯りがぽつりぽつりとしかない暗い住宅街の小さな道がいりくんだとこの駐車場の隣にある築40年ぐらいは経ってそうな木造二階建ての一軒家。
いつも外から確認する場所は決まって二階にある駐車場側から覗けるひとつの部屋。
夜空で覆われた暗い外から見える人工の灯りはやたら眩しく見えた。
ガラガラと敷戸になってある玄関を開けて、まず居間がある左へ進む。いけば亮(あきら)のおばちゃんがコタツの下で寝そべってテレビを見ていた。
「あらまーくんおかえり、バイトやったん?」
「ただいま、バイトやった」
「あんたご飯食べたん?」
「ご飯食べた」
「そう、あきは上におるよ」
「はーい」
実の親にすら出したことのない甘え声でおばちゃんにそう言い居間から離れた。
この家は唯一素直になれる俺の第二の家なのだ。
また玄関へ戻り今度は玄関前にある急斜がかった木目の階段をのぼる。古い年月がたった木の階段は時々ミシッと音を立てた。
のぼれば右にある敷戸はおばちゃんの寝室。
そして左の部屋の奥にある、うっすらと明かりが差し込む閉まったふすまの向こうが、親友亮の部屋だった。
ズズズと木と障子の擦れる音を立てながらドアを開ける。
亮は左にある繋がった四畳半の部屋にあるベッドの上で漫画を読んでいた。
「おう、まさきーお疲れ」
「お疲れー、ああ今日金曜か」
「そうよ、ジャンプの日よ、バイトやったん?」
「うんバイト、疲れたぁー」
「はは、お疲れさまでーす」
「あっ、これお土産」
「おーありがとー、紅茶花伝や」
「タバコも買っといたで」
「マジ助かるわー、もう3本しか無かったんよ」
「マジか、買ってよかった」
ベッドから降りた亮がコンビニの袋から取り出したペットボトルを1本手に取り、いただきますと言って口にいれる。
そしてマイルドセブンを1本取り出してライターで火をつけ煙を吐き出した。
数分他愛のない会話をしたあと、また亮はベッドへ戻り読書を再開する。
俺は6畳ある部屋のコタツでタバコを吸いながらたまたま床にあった銀魂を拾い読み出し、しんと部屋が静まり返った。
この静けさは俺達ふたりにとっては当たり前。
なにより、このお互いが空気でいれる時間が俺は好きだった。ひとりじゃないひとりの時間に安心する。
今日も俺は亮の部屋に泊まる。
もうこのコタツは俺のベッドと言ってもいいぐらい毎日寝起きに使っている。
俺は幸せだと思う。
まだ若いのに、大事な時間と安心できる場所を手に入れたのだから。
けど、心のどこかで寂しい感情がわいてくる。
そう、あと1ヶ月すれば俺は上京してしまう。
もうこの馴染んだ場所にいられない日が来る。
寂しいと思ってしまったら、思ったことを言葉として吐き出したくなる。
「あきら」
「んー」
「東京行きたない、あきらがおらんとかよくわからん」
「俺もよー、ずっと一緒やったしなあ…まさきがおらんとか考えれんし、寂しいな」
「…うん」
そう答えたけど、亮がいなくなることばかり考えてしまっている俺はもうずっと前から寂しくて仕方なかった。
なんとなく、SNSサイトを開き自分のブログを読む。俺のブログは、6割が亮のネタだった。
サイトの友達リストにいる亮のログインを確認すると3日以上経っている。いつも開けば3日以上になっているため、ずっと使っていないんだろう。
なぜだかわからないけど、ブログ執筆画面を開き文字を打つ。
亮は見ていない。
でも、いつか見てほしいのかもしれない。
亮へ宛てた手紙をブログに綴った。
______________
タイトル:あきら
本文:
お前わダルがりでホントに困る
今もオレが来とるってゆうのにジャンプ読んどるし!笑
この前もカラオケ行こやーって言うといて
あきらんち行ってみたらお前寝よるし
オレが誘っても0.1%ぐらいの確率でしかノらんし
いきなりプロレスの技かけてくるし
ギブギブ言うても、お?降参か?って言って離してくれんけん
助けてー!!!って叫んだし!
覚えとる?笑
何かに夢中になったらいきなり連絡放置するし、ホント冷たいやつよお前わ!
でも
けなし合えたぶん、おもろかったし楽しかった
お互い許し合えたぶん、なんでも話せた
オレが泣いてグチったとき、あきらも泣いて聞いてくれた
オレな、あの時後半から嬉し泣きやった
あきらのいいところ、全部知っとる
あきらに何かあったら助けにいくし
あきらが悪もんになっても
オレわあきらの味方やけん!笑
ずっと親友やけん
さみしい
はなれたくない
_____________
亮はこのサイトをずっと利用してないから、もしかすると見ないかもしれない。
それでもよかった。
別に見られてもよかった。
どっちでもよかった。
ただ今も、どうしてもやってくる亮との別れは、同じ部屋で一緒に過ごしている分、どうしようもない気持ちで押し潰されそうだった。
(明日も明後日もあきらんちに行こう。
ふたりの時間を大切にしよう。)
そう心で呟いたあと、コタツ布団をめくり顔ごといれる。
日記を書いたせいで余計感傷的になってしまった。
鼻をすする音で亮も気づいたらしくベッドの方から話し掛ける。
「お前泣きよん?」
「うん」
「どしたん?」
「…なんとなくよ」
「…なんとなくか…」
多分亮もわかっていたんだと思う。
俺が泣いている理由。
だからそれ以上何も言って来なかった。
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