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『繋がった空の下でメリクリ』② by.ぷにこ
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そして、とうとう俺は就職した。
3日間の新人研修を終えたあと、配属先が同じ同期同士で飲みに歩いたりしていた。
人見知りでもない俺はすぐに友人ができた。
朝は二日酔いで頭が割れるんじゃないのかと思う程の頭痛に襲われたこともある。
タバコを肺に入れてふーっと吐き出せばまたガンガンと痛くなるのだ。
職場の先輩は大概がいい人だった。
けど、こうるさい上司がひとりいて面倒臭かった。
大きな目はいかつく、丸い輪郭をしていて、今にも噛みついてきそうなそいつをシーサーと陰で呼んでいた。
すると先輩もシーサーと呼ぶようになり、お調子者の新人としてとらえられ、それなりに会社にも馴染んでいた。
ただ、お調子者だと言われるたびにひとりの人物を思い出す。高校は別でも、お調子者と周りから言われていた俺と亮。
お調子が過ぎるイタズラをお互いにしていた俺達ふたりの思い出が頭の中で再生されていった。
それ以外にも、休憩のとき、空を見上げた時、中途半端に酔って家に帰った時、夜眠れない時。
亮は何をしているんだろうと考えては、寂しいと感じた。
社会人になり、独り暮らしに慣れていないからかもしれない。
ひとりで過ごすときは何も食べないという日々を送っていたせいか8ヶ月で8kg痩せていた。
特に精神的に参っていると思っていなかったから、先輩に言われるまで気づかなかった。
気にしていなかった鏡越しにうつる自分の細くなった頬を見て、今まで気づかなかった自分に対し少しショックを受けた。
そんな仕事終わり、会社の近所にある焼き鳥屋で飲んだあと、みんなとカラオケへ行くことになった。
その日は12月25日のクリスマス。
男だけでいくカラオケは寂しさを味わうだろうが、そのとき相手のいない者が俺を含め4人いた。
みんなですれば怖くないという言葉がこの時の俺達にピタリと当てはまった。
まだ20歳の俺を含め20代前半しかいない俺達は、どうやら学生気分が抜けていないようだ。
社会人だと言うのに人の目を気にせず酔った勢いで叫んでいた。
「クリスマスなんかなくなってしまえー!」
「イー、ブイ、イー!」
「サーイレンナーイ」
「イー、ブイ、イー!」
同期が叫ぶから俺も釣られて叫ぶ。
クリスマスイブではないけど、単純にイー・ブイ・イーと叫びたいと思ったから叫んだ。
「イブは昨日終わったからはいー!」
「そーですよはいー、あー恋人ほしいー、さみしー」
「まーくりんならできるって、お前と付き合った女絶対お前にハマると思うよ」
まーくりんとは、俺の新しいあだ名である。
頭に花が生えていそうだからという理由でこんなあだ名がついた。
けど、別に嫌でもなかったから気にしてはいない。頭に花が生えているという例えはどうかと思うけれど。
「えっマジで?」
「俺が女ならハマる」
「なんそれうぜー、コイツウザイヨー」
そんな会話を繰り返しながら近所のカラオケ屋へとくたびれた背広を着た男四人が入っていった。
早速BOX席にはいり腰を降ろしてデンモクをいじる。
カラオケ自体久しぶりで何を歌おうかと迷ったけど、十代の頃に好きだったKREVAの曲を選んだ。
何が好きだったのかは今思うとわからないけど、中学生の頃に聴いた''ひとりじゃないのよ''が印象的で、それからKREVAだけはずっと聴いていた。俺の青春時代の曲といえばKREVAと言っていいほど好きだった。
KREVAなら、何にしようかとデンモクを睨む。あんなに好きだったのに、不思議と歌う気にはなれない。
大人になっていったってことなのだろうかと考えていたら、同期がマイクを握って歌い出した。
ギターをベースにした聴き馴染みのある優しく緩やかな曲調で流れる。
思わず、顔をあげる。
そして画面の曲名と、歌手名をみた瞬間目が離せなくなった。
19(ジューク)。
それは亮の好きなバンドだった。曲名は、伝えたい音。
それから俺はデンモクを持ったまま流れる歌詞を淡々と読み聴きした。
''なんでもないとき。
ふとしたとき。
思い浮かぶんです。
いつの間にか右手にとる電話。
楽しくしゃべって
心が癒されるんです。
涙が止まらないんです。
かけがえのない存在。
心の中で、幸せな存在。
あなたといると体やすまること
楽しくしゃべって
心が癒されるんです
涙が止まらないんです。''
わからない。
うまくまとまってない、言葉で言い表せない、わからない気持ちになる。
頭の中までが動かなったみたいだ。
ただ、2番目のサビを聴いた時視界がぼやける。
亮に対する色々なものが込み上げてくる。
(あきらに、あいたい。)
一粒の涙が頬を伝う。
(あきらに、会いたい。
あの部屋に、帰りたい。)
また一粒の涙が頬を伝った。
(なあ、俺ら…
どうして離ればなれにならんといかんのやろ。
あきらは俺と離れてどう思っとるんやろ。
俺、めっちゃ寂しいし。)
長く一緒に過ごした分、離れている時間がとても苦しいものだと思えた。
すごく亮に依存していると、亮が俺の心を埋めていると亮と一緒にいる頃から思っていたけど、離れて更に実感させられた。
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