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『無表情サンタの贈り物』⑤ by.四つ花
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「んん…」
寒かったのだろうか。
爽やかな青の布団を引き上げ、彼は頭から被る。僕はその横に、跪いた。
「……煌夜」
小さな、小さな声で普段は呼ばない彼の名前を呼んでみる。しかし布団に潜り込みその上熟睡している彼に届くはずもなく、苦笑を漏らした。
楠、煌夜(くすのき こうや)。それが彼の名前。僕のクラスメイトで、優しくて明るいクラスの人気者。
僕との関わりは皆無と言ってもいい程の彼に、僕はいつの間にか惚れてしまっていた。
どこがいいとか、どうしてだとかも分からない。
いつからかも分からないし、なにがあった訳でもない。
ただ、強いて言うならば…僕は彼の言葉に救われたのだと思う。
───────「三田は、無情なんかじゃないと思う。三田は、無情なフリをしているだけなんじゃないのかな?」
直接言われた訳じゃない。友達との会話の中、悪口を言った友人の言葉を否定しただけ。何気なく紡がれた言葉、何気なく向けられた微笑み。
いつのことだったかも分からない儚い記憶。
なのに、思い出すだけで心が温まる。
言葉で表せない気持ちに戸惑いながらも、僕はプレゼントの紐を解いた。
手のひらサイズの白い箱。赤いリボンをシュルリと解いて、蓋を開ければ柔らかな光が零れ出す。
ほんのり桃色に染まったそれは、彼の願い。
《澤村さんと、付き合えますように》
彼の願いを聞いた時、胸が痛んだのはどうしてだろう。この光を見る度、目頭が熱くなるのはどうしてだろう。
分からないものは、分からないまま。考えなければ、もやもやもしない。
僕はサンタ。願いを叶え、幸せを運ぶサンタ。
それは幼い頃からの自分で、今まで不満なんかなかった。
それなのに……。
こんなにサンタであることを憎んだのは、初めてだ。
僕は光をそっと取り出し、口に含んだ。
ごめんね、僕らの力では、澤村さんに君の気持ちを伝えることは出来ないし澤村さんの気持ちを君に向かせることも出来ない。
その代わり、これをあげよう。
布団をそっと脱がし、眠る君に口づけを。
含んだ光を、彼に移す。
するとそれは、彼の中に取り込まれすぅと消えた。
僕に君の恋を叶えることは出来ない。
だからその代わり、“想いを伝える勇気”を贈るよ。
僕はん…と顔を顰める彼に布団を被せ、そして痛む胸に首を傾げて外に出た。
白い雪がふわりふわりと舞い降りる。
今日は聖なるクリスマス。人々に、幸せが訪れますように。
……なぁんて。
『ほら雪、帰るぞ』
「だから雪って呼ばないで」
僕らはいつもの会話を繰り返し、そして温かな家へと急いだ。
…fin…
*:.。..。.:+ 素敵なクリスマスを *:.。..。.:+
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