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『サンタと天使が笑った夜』⑤by.高瀬結衣
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「寒いだろう、帰るぞ」
早く来いと凄まれ、とりあえずおずおずと近づいてみる。
「あのう……どこかでお会いした事、ありました?」
「ある」
「えっ、いつ」
その返事に答える代わりに男は俺の手首を片手で掴むと、勢いよく歩き始めた。
うそ、やばい、俺、さらわれる。
「あのっ、ちょ、すみません!」
「早く乗れ」
路上に停車していたタクシーの後部座席へと押し込められ、あっという間の展開に口をぱくぱくとさせているうちに、タクシーは音も立てずに走り出した。
「あ、あの、困ります、てかあんた誰!」
「原 翔冶」
「いや名前じゃなくて」
「さっきから何が不満だ、お前の事はちゃんと確認して購入しただろう」
「あああもうすみませんギャグかと! 謝りますから降ろしてください」
「契約は成立している」
「だってあんなトコで男かうとかおかしいですて! しかも2000円とか破格過ぎでしょ!」
「良い買い物をした」
もうやだこの人との会話。
「てか今どこに向かってるんですか」
「俺の家に決まっているだろう」
「ご家族とか!」
「一人暮らしだ」
「じゃああのファミリーケーキは」
「お前と食べる」
いらないよ!
「『売れ残り』にはこの後の約束もないだろう」
「売れ……」
カッチーン。
「あれはケーキの事です!」
ムキになって言い返した所で一瞬会話が止まり。
男は俺の顔をじっと見つめ、それから突然、大きな手で俺の頭を乱暴に撫で始めた。
「なな、なんですか!」
イヤイヤと頭を振りながら声をあげると、まるで呟くように男は云った。
「冗談だ、お前は売れ残りなんかじゃない」
この人は、何者だ。
訳がわからない。けど、その一言は、嫌じゃなかった。
乱暴だけど俺の頭を撫で続けるこの手を温かいと感じるのは、俺の体が冷え切っているせいかもしれないけど。
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