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『メルティ・キス』③by.蜂乃
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「な、に……?」
「じゃーん、クリスマスプレゼントー」
「え……」
「開けてみ?」
言われた通り、包み紙を開く。
中身は、ブランドものの時計であった。このブランドは、結構値段がするというのを知っている。
──マジで今月やべーの。
そう言っていた意味が、今ならわかる。
しかし、──。
俺は、うつむいた。まだドクドクと脈打つ鼓動が妙に感じて、手が震える。
「……ないですか」
「ん? どした……?」
「馬鹿じゃないですか……」
だって、これは──。
「えっ、お前それはないだろ! 店でずっと見てたじゃん!」
「それは、先輩に似合うなって! っ、あ……」
「思っ、て……ですね……あの、これ」
濃いブルーの包み紙でシンプルに包装された箱。それは、先輩と同じ形状をしていた。
勿論、中身は同じな訳で。
「ほんと、馬鹿じゃないんですか……俺たち……」
先輩の顔が見れない。けれど、今、どんな顔をしているのだろう。
それが気になって、瞳だけ上へ動かす。
「葉月」
しかし、先輩の表情を見る間もなく、突然自分の名前を呼ばれ、大きく心臓が鳴った。そして、俺から何か行動を起こす時間もなく、先輩は俺の腕を引っ張って個室を出ていこうとする。
「え、え、荷物……!」
「俺が会計済ませてる間に片付けろ」
そう言って先輩は、先に出ていってしまった。
「待って! え、嘘だろ!?」
すべてが突然なことで、現状に着いていけない俺は、とりあえず、荷物を鞄にぶち込んで先輩を追いかける。
急いで支度をして会計に行ったつもりだったが、そこにはもう先輩はいなかった。
きっと、店を出たのだろう。
そう思い、扉を開ければ──まだ降りたてなのだろうか──ほんのり白く、雪景色が広がっていた。
俺が店と外の空気の温度差に身震いしていると、煙草を銜えた先輩が近づいてきた。先輩はそのまま俺の腕を掴んで、引っ張っていく。
「ちょ、ちょっと! どこ行くんですか!」
「帰る」
いつもとは違う先輩の素っ気ない態度に、俺は少し困惑していた。
「はあ!? どこに!?」
「俺ん家!」
怒っているのだろうか。原因は、あの時計だということは確実だ。けれど、そんな態度になる要素があったのかが、俺にはさっぱりであった。
掴まれてる腕が、じくじく痛い。
「なんで!」
「わかれよ! それくらい!」
「わかるか!」
チッと先輩の舌打ちが耳に入ったと思えば、狭い路地裏に連れ込まれた。人気もまったくなく、店が出したゴミ袋があちらこちらに置いてあって、とても殺風景な場所だ。
というか、こっちは先輩の家の方向ではないはず。
なぜ、と考えを巡らせている間に、先輩に顎を捕らえられ、強引に唇を奪われた。胸板を押して離れようとするものの、片方の腕が腰に回っていて、身動きさえも許してくれない。
深くはないのに、啄まれる唇がやけに淫らで、俺の鼓動が高鳴るのに、十分な口づけであった。
「こ、ここっ、外……」
「わかってらぁ」
低く掠れた先輩の声。
何、やってるんだ、そんな声出すな、と睨み付けようとして、顔を上げる。
しかし、あの時計の件以降に、先輩の顔をまともに見ることになる、ということをすっかり忘れていた自分が迂闊だった。
眉間に皺を寄せ、頬がほんのり赤みを帯びている。怒っているような、照れているような、なんとも言えない初めて見る先輩の表情に、ドクンと一際大きく脈打った。
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