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『メルティ・キス』④by.蜂乃
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「やめろ。今はあんまりジロジロ見んじゃねえ」
「せ、先輩」
俺も、どうかしてる。
なぜだか先輩に触れたくなって、手を伸ばした。だがその時、次の先輩から出た言葉にピタリと手が止まってしまう。
「クリスマス、台無しだな」
突き刺さるような、そんな感覚。
先程から鼓動が高鳴りすぎてて、心臓が痛い。
「な、なんで? なんで、そう思うんですか? 俺、何かした?」
どうして、こんなに痛い。どうして、こんな想いをしないといけない。こんな、予定じゃなかったのに。
嘘だろう。もう嫌だ。泣きそうだ。
俺が声を震わせながらも、喉から精一杯出しているというのに、先輩は黙ったままで、髪をクシャリと掻き回している。
違うだろ。そうじゃない。早く何か言えよ。
馬鹿……ばか、先輩。
「なんで、そんなこと言うの……しゅ、修。やだ、何か、言ってよ……」
修。先輩の名前。
時々しか口にしない言葉に、ピクリと先輩が動いたのがわかった。
先輩は、手で俺の目を拭う。いつの間にか涙が出ていたらしい。そして、一息ついて、先輩の唇が開いた。
「ああ、泣くな。ばか、そうじゃねえよ。せっかくだから……」
「?」
「ケーキ買って、俺ん家行くか? お家でクリスマスプチパーティー的な?」
「……ん、」
なんだよ、それ。
いつもなら、また喧嘩腰に口先を鋭くするのだが、今は安心しきってしまって、何か言う気にとてもなれなかった。痛みも、緊張感も解れて、ついつい涙腺が緩んでしまう。
「うわ、静か。どったの? あら、また泣いて」
先輩は先輩で、いつもの調子に戻っていた。それは癪に障ったので、背中をバシンと強めに叩いてやる。
「いった! はいはい、じゃあ、行こうか」
寒い寒い雪の日、ホワイトクリスマス。
繋がれた手は、とても暖かかった。
End
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