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『present for.』①by.椋太郎
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「プレゼント!いりませんか!」
都内に珍しく雪が降ったのはタイミングを見計らったようにクリスマスイブで、独り身の俺には寒い心を余計に寒くするものでしかなかった。
しかし、馴染みの大衆居酒屋に行けば同じような独り身の男で溢れていてこんなクリスマスも悪くないかとも思う。
あまり酒に強くもないのに熱燗を煽り、喉の焼けるような熱さに顔をしかめて口を結ぶ。飲んだ後吐き出した息が酒臭いなと自分でもわかるほどだったが、今日から正月休みに入った為にまあいいかと、残った酒を一気に流し込んだ。
胸の真ん中あたりを熱が通り、その反動かという位の熱が喉元からせり上がって顔がかっかっと熱い。
俺は酒の力もあり、ポカポカしてきた体を引きずるようにして店を出ると身体が温かいせいで外の冷気が余計に冷たく感じた。
首を落として肩をあげ、出来るだけ体を縮こめてひょこひょこ歩いていると、一軒の洋菓子店で若い男に呼び止められたのだ。
「プレゼント…?」
「そうです!プレゼント!いりませんか?」
鼻の頭を赤くして、話しながらも時々鼻をすする彼の前には残り三つのホールケーキ。整った顔の上には赤いサンタ帽を被っていてクリスマスの販売だとすぐにわかった。
透明のケースに入れられた見本のケーキは綺麗なデコレーションと、優しそうな、砂糖で作られたサンタクロース。チョコペンで描かれた筆記体の文字はここ数日で身過ぎたほどのもので、そのホールケーキの大きさと文字が改めて独り身の寂しさを感じさせた。
「わかった、プレゼント全部貰うよ。いくら?」
「え!?」
だいぶヤケクソだった。
元から甘いものがすごく好きというわけじゃないし、今飯を食べてきたのだからこんなに多量に食べれるわけもない。
でも、イケメンと言われる部類の男の子が鼻も手も赤くして珍しい売り文句で必死にケーキを売っているのをみたら、ああこいつも一人でクリスマスを過ごすのだな。と思って思わず言ってしまったのだ。
思えば、このあと友達と会うとか、明日彼女と会うとか色々仮説はあっただろうに、酒のせいで回転が鈍い頭はただただ、目の前で寒そうに販売をしてる彼が自分と仲間のような気にさせたのだ。
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