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『present for.』③by.椋太郎
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真っ赤なハコを無造作に開けて、出て来たのはシルバーリング。
自分がアクセサリーに興味が無いから指輪の相場は知らないが、昔付き合っていた彼女とそのブランドの店に行った事があり、そのリング一つで万券がどれほど飛ぶかは知っている。それを対面から乗り出して俺の左手に嵌めた彼はそのまま俺の手を両手で握ったかと思うと、まっすぐな瞳で俺の目を見るのだ。
「ずっと好きでした」
「…告白の練習?」
「違います…!!貴方が店に一度来た時一目惚れしたんです!その日から店の皆に手伝ってもらって貴方の指輪のサイズ調べたし、彼女がいないかも調べました。クリスマスは近くの居酒屋に行くのも知ってたから外で売り込みして…!」
「だーっ!ちょ、まった!待った待った!!」
彼のマシンガンのように放たれる新事実と、以前あの洋菓子店に社の子に頼まれて買い物に行った時、可愛い店員さんに「彼氏に指輪をプレゼントしたいから指のサイズの平均が知りたい」とかで今リングが嵌ってる指のサイズを計らた事とか、クリスマスケーキを勧められたと同時に聞かれたクリスマスの予定とかそんなものが頭の中をフラッシュバックした。
もしかしたら俺に気があるのかもしれないと、浮かれていた俺に今この状況を見せてやりたい。
「俺本気ですから…」
「あのね、色々間違ってると思うよ。君顔良いんだし、女の子探せば選り取り見取り~…なん、つって…」
俺が女の子と言葉を発した瞬間、キリキリとつり上がる目に若干焦りながら誤魔化したがそれも遅く、テーブルに乗り上げて俺の前にきた彼は俺の体を突き倒す勢いで抱き付いてきた上に、俺の腕まで巻き込んでいたせいで受け身を取ることもままならないまま床にゴロンと倒れ込む事になった。
細いと思っていたが力は強いし、抱き付いてきたのに柔らかい感触は全くない。困りはするが、嫌な感じがしないのはイケメン効果だと思うとイケメンは本当にずるいと溜め息を吐くと、身体に巻き付いている手の力が増した気がした。
「俺本気ですから…、それ結婚指輪です」
「…知ってるよ、嵌めた指が指だし、見たことあるし」
「…彼女とですか」
「…君ねぇ、俺だってこの年で男だからね」
「知ってます、でも今フリーなのも知ってます」
「フリーとは言っても、ねぇ」
「俺まだ学生ですけど、将来有名なパティシエになります!それで、毎年ケーキでクリスマスお祝い出来るし、誕生日だって貴方の為に作ります!だから、チャンスだけでも…」
実は甘い物そんなに好きじゃないとも言えなかったのは、顔を赤くして必死に自分のいいところをアピールする彼が可愛く見えたのと、こんなにも自分を好きだと叫んでくれる人には今まであった事が無かった所為で。
俺は離してくれという意味を込めて腕をタップすると、しょんぼりとした影を背負いながらゆっくりと俺の上から退いてくれる。
首を垂れて正座する彼はなかなか面白いが、俺はとりあえずプレゼントのお返しをすることにした。
「これ、お返し」
「え…?」
「付き合うとかはまだ考えられないけど、まあ、善処します」
俺が私用のアドレスを書き加えた名刺を手渡し、彼が嬉しそうに顔を輝かせて俺に抱き付いて来た時、微かに隣の部屋でクリスマスを祝う声が聞こえたのだった。
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