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週3日はホストクラブ、週2日はBAR、週2日は完全に休日。そんな生活を毎日毎日、機械的に。強くもないお酒を飲んで、お酒を作って、お酒を飲ませて。愛に飢えたお姉さん方を癒すお仕事。こう言えば聞こえはよくても、所詮水商売。俺がまさか、水商売をするようになるとは半年前まで思ってもなかったのになぁ。
「アイくん指名入ってんでー!2番テーブル、吉野さん。」
「はい。あーあの人ですか、了解です。」
「はいはいはいはい、笑顔笑顔!せっかくドギツイイケメンなんやから、笑っときー!」
みょーんと、両頬を引っ張られる。痛いです。というと、背中をバシバシ叩かれる。大阪という地のテンションは、俺にはあんまり理解できるものじゃなかったけど、ここのお店は優しい人ばっかりだ。そういえばこのテンションの人を俺は知ってる気がする。恋の、憧れ。恋の、未来。庄司くんとよばれていた先輩は元気だろうか。そんなことを考えながらも、お席について、お姉さんの一時の恋人になる。
この仕事は、向いてはいない。
確実に、向いてはいない。
だけど俺には、足りてないものが多すぎて、なんでもやってみないことには成長はできない。
まずは社交性、空気の読み方、守られる男ではなく、守れる男に。頭の中ではいろいろと整理もできるし次に何が必要なのかもわかっているのに、行動できないんじゃ無意味だ。
だから、きっと恋に、今ホストやってるよ なんて言ったら絶対怒られるけど、…もう、会うことはないんだから、そんな心配も必要ないか。
大阪に来て、作り笑いを覚えた。
それは高校の時にはうまくできなくて、代わりに恋がうまくやってくれてたことで。俺は眩しすぎる幼馴染の日陰に隠れて、いつもズルばっかり。求めてばっかり。与えられたことなんて何一つない。恋心だって、無理やり押し付けた。
俺は、欠落している。
いろんなとこが、いろんなことが、とにかく足りてない。
人に話を合わせることひとつ。
人と目を合わせることひとつ。
人の言葉に耳を傾けることひとつ。
俺はしようとしなかった。
変わらなければ。
もう助けてくれるヒーローはいないんだから。俺が、俺を、守らなくてはいけないのだから。
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「お疲れ様でーす」
「お疲れー!」
「おつかれ、うぇっ、グロッキー。飲み過ぎたわ」
閉店。さっきまで女の人にニコニコしてたメンバーが全員してダラける。ゾンビ顏、疲れを隠そうともしないで床に転がったり、トイレで吐いたり。見慣れた光景と、慣れてしまったもう終電のない時間。…どころか、朝。俺はぐーっと伸びをして、ソファーに腰掛けた。
「始発まであと何分あんの〜?なんか食べたいんですけど」
俺の肩にとすっともたれかかった香水臭い城下くんが、スマホをいじりながら俺に問いかけてくる。
「いや、城下くんってここから家まで徒歩って言ってなかったっけ。」
「うははっ、徒歩だけどー?違うじゃん、愛くんの始発の話してんのー」
「はぁ、なんで俺の始発気にするんですか。他の人誘えばいーじゃん。」
「はい、冷たーい。気分は朝マック?それとも吉牛?またはうどんとかー?」
「普通にやよい軒で。」
「ん、決まり〜。んじゃ先輩方俺ら朝やよい軒するんでお先でーす」
「はいはい、つーかお前らいつからそんな仲良なったん?」
「仲良くないです。」
「冷たーーーい!同じ関東人だから気があったんですよー」
「なんやそら!まあ仲良いんはええことやしな、早よ帰れ早よ帰れ〜」
「一青くんも冷たーーい!」
「なんっでやねん、俺に何求めてんねん!」
どこでもそうだけど、どこにでもリーダー格の人は存在する。このホストクラブ「雅」でのリーダーは一青(いっしょう)くん。ナンバーワンにして、この仕事に誇りをもってて、いつもしっかりしてて、男目からしてもかっこいい人。どことなく雰囲気は庄司くんに似てるなぁ、って感じで、だけど体格は真反対だよなぁって感じで。とにかく、みんなに慕われている一青くんに、しっしっと手で払われてしまったら帰るしかない。…帰るというか、城下くんとやよい軒か。
まあいいか、俺もお腹すいてるし。味噌汁飲みたいし。
ホステスやキャバ嬢みたいに着替えなんてものは持ってきてない。スーツを正してカバンを持って、店をあとにするだけ。城下くんは金色の長い髪を一つに結んで、手ぶら。
「おつかれさまでした。」
ぺこ、っと挨拶をして、店をでる。
城下くんはとくに話しかけてくるわけでもなく、やよい軒までの道を無言で歩いた。
「さすがのミナミでも朝は静かだねぇ」
「…そーですね。ていうか本当何?距離詰めてくるの早くない?」
「俺はそーいう人なんです〜。んー何食うかなー。ホッケとか食いたい気分だよわりとガチめに」
「食べりゃいいじゃん。俺とりからで。」
「朝から揚げ物!強ぇ〜。顔と言動と行動、全部バラバラだね?愛くんって」
「そうですか。見た目とギャップあるぐらい普通でしょ。」
「そーね。ん、きめた、俺が誘ったから奢ってあげる。本当にとりから?」
「ありがとうございます。とりからで。」
「ほいほーい、……あれ!?」
食券機の前で、城下くんが焦ってる。ガチャガチャと音をたてて、「うっそ!?まじ!?」とか言ってるもんだから、何事かと思って後ろから覗き込んだら、…ちょっと。
お札いれるところに、カードを突っ込もうとしていた。
「…なにやってんだよ。」
「や、まじ、ビビってんだけど、食券ってカードで買えないのー!?」
「普通は無理だろ…。」
「やばーい!!俺、カードしか持ってねーよ!?」
「はあ?城下くんどんだけ稼いでんですか、引くんですけど。もー仕方ないなぁ、俺のメシは高いですよ。」
「うへぇ…ごめん〜。」
へらぁ、と笑われたけど、表情から申し訳ないって気持ちが感じ取れた。俺は財布を出し食券を買う。とりからと、ホッケ。ごめんなぁという城下くんと席について、定食が運ばれてくるのを待つ。
「カードしかもってないって、不便じゃないですか?」
「…俺、普段こういうとこ来ないしー。やよい軒とか人生初かもだしー。」
「なにそれ、ヤバくないですか?」
「ヤバくないよー。だって俺、すっげぇ金持ちなんだもん…もはやこれが悩みってぐらい…」
「そんな贅沢な悩み始めて聞いたんですけど。それなのにホスト?まだ稼ぐのかよ。」
「はは、いやー。金が欲しいんじゃないんです〜。あそこは、あったかいから。」
「…ふぅん。」
「ふはっ、本当愛くんは、人に興味ないよねぇ」
確かに、あのホストクラブが暖かいということだけはわかる。
一青くんを筆頭に、ナンバーツーのマキくんに、俺にかまってくれる城下くん。他にもたくさん、優しい人と人情溢れる人でいっぱいで、人と接することが苦手な俺もすんなり溶け込めた。奇跡レベルに、すんなりと。「こういうキャラ」として、招き入れてくれた。
それはわかるのに、それに絡んだ人の事情はどうだっていい。
もっと踏み込んで聞けばよかったのかな。そしたらどうなるの?
「内に秘めた気持ち」を知れば「今よりもっと深い関係」になれるの?
別にそんなもの必要なければ、どうすればいいの?
「でも、あっさりしてていいなぁ。」
人間関係、すごく難しい。
踏み込んで欲しいのかと思ったのに、城下くんはやんわりと拒絶を見せてくる。
それなら初めから、本音なんてチラつかせなきゃいいのに。
「……興味ある人には、もうちょっと束縛ッキーですよ。俺。」
「わー、さりげに酷いねー?」
「でもそんなのはこの世に一人だけ。残念でした。」
「恋くん?恋ちゃん?わかんないけどその子でしょー。」
「悪いけど。…恋の話はしないでくれますか。」
「はは、いーけど。突っ込まれたくなければ、本音なんてチラつかせなければいいのに。馬鹿だねぇ?」
あ。さっきの俺と同じこと言った。
やっぱ、いやだ、この人。
どことなく自分と似ていて、どことなく自分よりずっしりと、重いところが。
「俺と城下くん、似てますね。」
「うん、俺もそー思います。自己嫌悪しちゃうから、ほんと、愛くんみたいなタイプ嫌ーい。」
「奇遇ですね。俺もですけど。」
「でも、似た者同士ってさ。誰よりも、慰めあえるんだよ。」
にこり。
綺麗な顔に貼り付けた笑顔、自分に似ていて自分より一枚も二枚も上手な城下くんに、俺もにこりと笑顔を返す。
「虚しい人だな。」
はは、どっちが。って感じだよな。
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