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餓鬼
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それはまるで呪いのように。
「恋、俺のすべて。」
と、まじないをかけた。
俺自信にも、恋にも。
まじないは、呪いと書くとも知らずに。自分で全て、拗らせた。
人形みたい。
という言葉が、いつも喉の奥に突き刺さって。俺はそれを否定できない。言葉が詰まって声が出せないから。それ、人のせいにしてない?って言われたら、耳を塞ぐ。
あのね、違うんだ。
言い訳に聞こえるかもしれないけど、違うんだ。俺みたいな器にもちゃんと、俺という人間が生きてるはずなんだ。それを、どうやって探してあげればいいのかわからないだけ。あーあ、比喩ばっかりで、嫌になる。要するにだから、俺はまだ、俺はとして未完全なだけ。
逃げ。
こうやって、恋の背中に隠してもらって、生きていたんだなぁ。
恋を好きでいる自分が、自分なのだと安心していたんだなぁ。
恋がいなければ、俺の中身なんて…どこ、行っちゃったんだろうなぁ。
言葉は簡単に人を傷つける。なんてもう、陳腐で聞き飽きた言葉だけど。たったの1パーセントでいいから、救われたとしたら。それは刃じゃないんじゃないかって思うんだよね。たったの1パーセントでも救われたらの話。誰も救われなかったんだから、俺の言葉は恋をざくざくと切り裂いていただけだった。
誰よりも、好きだったのに。
好き、だった。だって。ほら、もう、数ヶ月、恋の顔を見ないだけで感情は少しずつ少しずつ薄れていくんだよ。そんなもんなんだよね。愛なんて、恋なんて。好きなんて。嘘だらけなんだよ。何か理由がなければしがみつけないような感情なんだよ。それにしがみついてすがって泣いて、俺、何をしてるんだろうなぁ。
こんな、離れた土地で。なにを。
「…………そして、お前は何をしてるんですかね。」
「ん〜添い寝?」
「わあ、迷惑。」
本当に、何を。
あの日から、毎日、俺の住んでる小さいアパートに城下くんが帰ってくるようになった。追い出しても追い出してもしつこく、それはそれはしつこく住み着いてくる。俺じゃなくてもいいくせに、俺じゃなくてはいけないような顔をして、俺がいいのだという、大うそつき。反吐がでる。のに、ひとりぼっちの部屋よりは、この人といたほうがまだ、マシだと、思うようになってしまった。
「何食べよっか。仕事前になんか食べよう?」
「はぁ、そうですね。家から出るのが面倒なんでピザでも頼んでおいて下さいよ。」
「君さー、ほんっと生活力ないよねぇ〜。俺、ピザは胃もたれするから嫌ーい。寿司にしよ、寿司」
「もう食べたいもの決まってたならいちいち聞かないでくれますかね。」
「そんなに冷たくしないで、寂しいじゃん。」
寂しいと言って、いつも俺に構ってくる。俺はただ、一人でいることが苦しくて、城下千弘という人間のことが嫌いで仕方ないというのにそばに置く。…クズ。
彼だって、愛されたいと言っていたのに。不毛だよね。
心が青く尖ったら、そこからは堕落だけが待っている。まあいいや、って思っているうちは、俺は成長なんてできない。
はぁ、もう、さっさと死んでしまいたい。
「めんどくせぇな全部。」
口からぼそりと本音が漏れた。
「もー、そんなに焦らない焦らない、何をそんなに焦ってるのー?」
「はぁ?」
本当にわざと、俺のカンに触れてくるなぁこいつ。
「綺麗な顔、そんなに歪めて。」
「あのな、お前ほんとにウザいし一体なんなわけ?追い出すよ。」
「ふふ、君は俺を追い出したりはできないよー。だって君アレでしょ〜」
細い指がスルリと俺の頬を撫でる。それをバシッと払うと、何が楽しいのか嬉しそうに笑われてしまった。
「罪が欲しいんだよね。」
「……………。」
「罪に依存しないと、潰れてしまうんだよね。」
「……………分かったような口をきくな。」
「今日、仕事休んじゃおうか。」
払ったはずの手が、また伸びてきて、ぷち、ぷち、と一つずつ、俺のシャツのボタンをはずしていく。
「セックスはしないって言ったよな?」
「セックスでもしないと罪作りにはならないでしょー」
「お前とそんなもん作りたくないんだけど。」
「だーいじょうぶ大丈夫、いいんだよ、俺が…、共犯になってあげるから。」
「殴るよ。離れろ。」
「あはっ、なにそれ、興奮するね?」
こいつは、気でも狂っている。ねっとりと胸に這ってくる城下くんの白い手に吐き気さえ覚える。
なにが共犯、何が罪。
それってほんとに、俺が欲しいもの?
お前が欲しいものじゃなくて?
「城下くんは、頭でもおかしいんじゃないの?俺、絶対お前に勃たない自信がある。」
「ん?ふふ、大丈夫、遊びでしょこんなのは。ほらだって、君もね、ずっとここにいるわけじゃないじゃん」
「…どうしてそんなに頑なに、恋人を望まないのかな。」
「失くしたくないものは初めから持たない主義なの。君みたいにぼろぼろになって、それから俺を救ってくれる人は居ないからねぇ」
「ふっ、ふふ、ははっ!なに?お前自分が俺を救ってるとでも思ってんの?」
「うん?勿論。だって君、これから俺の為に生きるようになるからね。」
あー頭おかしいわこいつ。
そう思うのにどうして、俺はされるがままなんだろう。
「綺麗な顔だけじゃなくて、体も作り物みたい。本当に心臓うごいてる?」
城下くんが俺の胸に耳をあてた。
「君がこの土地を離れるまでで構わないから、俺のプライドを守ってよ。それだけのために生きればいいじゃん。」
スエットの隙間に指をかけて、なんの反応もない下着のうえから愛撫される。反応なんてしない、だってこの人は西浦恋ではないから。
「…つれないなぁ。」
「初めからそう言ってるでしょ。」
「…抱いて欲しかったなぁ。」
「出来ません。アンタが傷つきたいために俺を使うな。」
「…恋って、どんな気分?苦しいの?悲しいの?痛いの?」
「全部かな。」
「なのにどうして恋をするの?」
わからないよ。バカじゃないの。
わからないからここにいるんでしょ。わからないから恋と東京で暮らすことを諦めたんでしょ。わからないから恋から離れてここで生きてるんでしょ。
「恋なんて、してみたいけど。恐ろしくてとてもじゃないけど出来そうにないや。」
す、っと俺の体から離れた城下くんが、タバコに火をつけた。
ここで吸うなって言ってんのに、こいつほんっと言うこときかない。
「やめてね。俺に惚れたりするの。」
「えっ、怖い。愛くんってすげぇ自信過剰、自分の価値高すぎでしょ。」
「うるさいなぁ、お前が自分の価値を低くしてるだけだろ。」
「俺、愛くんのそういう厳しーとこすきだよー」
「嬉しくないし。」
脆い人間と脆い人間が一緒にいて、強くなれるわけがないのにね。俺はこの人から何を学んでいるのやら。
「そもそも、俺お前のこと知らないですし。」
知らない人を好きになるには時間かかりますし。セックスとかとくに無理ですし。そんなの当然でしょ?って思うんだけど、やっぱ20歳とかいう大人としては、俺の感覚はお子様?なのかな?
まあ、お子様だろうが構わないけどね。
これが俺だからね。
「なにー?俺のはなしー?んー、城下千弘、AB型、好きな食べ物はコーヒー、嫌いな食べ物は焼肉、実年齢は17歳、今年18になります。高校休学中、自分探しの旅にでるために大阪に逃げてきた、多分留年すると思う〜」
「へー、……………は?17!?」
「うん、17だよ?20歳って設定だけど〜」
「いやいやいや、はぁ?騙してたの?俺のこと。」
「ごめーん、だって全然気づいてくれないしー?まあいっかーみたいな?」
「えっ、こっわー、最近の高校生わけわかんない。」
「愛くんだって去年まで高校生でしょー、かわんないかわんない。さーてと、寿司でもとろう、仕事いくんでしょー?」
「…マセてんだね。」
「普通だよ。」
衝撃的新事実、17歳と告げられて、脳裏を過ぎったのは笑顔の恋の顔。あの時の恋は、ちゃんと笑ってくれていた。ついでに鼻をかすめたタバコの匂いも、城下くんのモノではなく、恋の匂い。17歳でタバコ、体に悪いからやめてほしかった。それは恋に対しての感情で、城下くんには別に、そう思わない。
キスの味、どんなのだっけ。
恋とのキスの味、もう忘れてしまったなぁ。
口と思考回路だけ達者な城下くんと、思い出に囚われすぎている俺、お子様なのは一体、どっちだろう。
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