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なぁに、と
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……ほんの、一瞬だった。
車道側によろめいた俺の肩を、掴んで、引き戻して。それから………
あの耳から離れない嫌な音と共に、春樹は、ドサリと倒れて動かなくなった。
ついさっきまで暖かかった彼の指は、身体は、どんどん冷たくなっていく。
…おい、嘘だろ。
さっきまで他愛のない会話をしていたのに。さっきまで、隣を、歩いて、いたのに。
今は、どれだけ名前を呼んでも、返事をしてくれない。
いつもは、いつもなら、名前を呼べばすぐにこっちを向いて、端正に整った顔をふにゃと緩ませ、優しく「なぁに。」と返事をしてくれるのに。
……こんな…一瞬で…………
春樹の俺よりも一回り大きな身体と、その身体から流れている血が、俺の視界を覆った。
「春樹、春樹、春樹…はるき」
名前を呼んだ。
何度も何度も、何度も何度も何度も。
……おねがいだから、目を、覚ませ。
救急車のサイレンの音が、俺の耳に届く。
誰かが、呼んでくれたのだと知る。
速く、速く。
___どうか、春樹を………
「助けて」
春樹。春樹。春樹。
お前が助かるのなら、なんだってするから。
死なないで。お願いだから。
頬を、涙が伝った。
嗚咽が、涙が、後から後から、溢れて止まらない。
俺を助けたせいで、春樹は、こうなってしまった。
俺が、あの時もっと足元に注意を払っていたら。
「……っ春樹、はるき、はる、っきっ」
名前を呼ばないと。
いくらでも呼ぶから。
いつもみたいに、返事をしてよ。
「なぁに」って。いつもの笑顔を、見せてよ。
救急車が、春樹のすぐ近くに止まった。
春樹の身体が、救急隊の人によって、慎重に担がれ、運ばれる。
「俺もっ…俺っ、を乗せ、て…ください」
嗚咽まじりに言った言葉に、救急隊の人は、優しくうなづいた。
神様。神様。
いるのかなんて知らない。
信仰している神様なんて、いない
…でももしいるのだとしたら。
神様、どうか、彼を………春樹を
助けてよ。
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