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俺キレました
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桐嶋さんからの要件はまぁ決まって、
また俺への説教なんだろうけど。
こんな人気のない会議室にお呼ばれしちゃって、一体何を言われることやら。
そう身構えてはいたのだが。……
「お前、最近態度悪くねーか」
椅子に座らすわけでもなく、
開口一番がその言葉だった。
これには驚いて、思わず「はっ?」と言いそうになったが、俺はかろうじて平静を保った。
「…あの、
特にそんなつもりは無いんですが…」
何言ってるんだこの上司は。俺ほど表裏を使い分けれるやつはそう居ないぞ。
俺ほど君ににこやかに対応できるやつもいない。
おずおずとそう答えると、桐嶋さんは、脚を組み机に頬杖をつきながら、俺の顔を穴が空かんばかりに睨んできた。
思い返せば、入社してからはや半年。
ずっとこの男にネチネチグチグチ言われてきた俺だが、ひねくれた態度をとったことは一度もない。ただの一度もだ。
腹の中は真っ黒で悪口の宝庫だが、
それが表に出てしまうことはありえないのだ。
なぜって、自覚するくらい、本心を隠すのが上手いから。誇れる事じゃないけど、その点では得意になれるほどに。
「…いーや。
謙虚そうな振りして、話し中にはぼーっとして聞いてんのか聞いてないのかわからんし、同じ事を何度教えても成果が見られない。
今だって、それちゃんと聞いてんのか」
…それが、この男にはバレている。
じゃあなんだ。
俺が三度の瞬きに一度、
桐嶋さんにゴミを見るような目を向けていたのも、バレてたっていうのか…!?
「す、すいません…聞いてます!
ちょっと疲れてるみたいで…はは」
「疲れてるだと?
まともに仕事もこなせねぇで言う台詞かよ。ちんたらする癖に残業だけはしっかりつけやがって。仕事舐めてんのか!?」
あ…やべー…
墓穴掘った。
割と落ち着いて淡々と話していた桐嶋さんの声が、途端に大きくなる。
勘弁して欲しい。
残業泥棒だとか勝手な事を言ってくれるが、うちはどちらかというと、定時で上がる方が周りに責められる傾向にあるのだ。
そんな、憶測だけで物を言うのは如何なものか。
「だから何なんだよその目は!
聞いてるなら相槌くらい打てねーのか、お前いつも最後に口先で謝ってるだけだろうが!!
隠してるつもりか知らんがな、そういうことで、育ちが悪いのがわかんだよ!」
この目は生まれつきこうなんだよ。
育ちの悪さとか全く関係ないし。
大体お前が俺の何を知ってるってんだ。
俺の苛立ちも頂点に達し、目の前の男と同様、罵声を吐いて大声で怒鳴りつけてやりたい衝動にかられる。
だがそれはダメだ。
なぜかって、俺は社内で有名な爽やかイケメンだからだ。
俺はふるふると震える手を摩って、黙って文句を浴び続けた。
「こういう注意で済むだけ有難いと思え、お前がやる事なす事ミスする度に、全部俺にしわ寄せが来てんだよ!! 」
「…以後気をつけます…」
「わかってんなら、
俺に謝って、礼言ってから戻れ」
「え…」
俺がゆっくり伏せた顔を上げると、
意地の悪そうな笑みと目が合う。
「だから、
貴重なご指導ありがとうございます、って。言ってみろ」
「は……」
それはないだろ…
思わず口元がひくりと動いた。
どこが指導なんだ、どこが。
こんなの、気に入らないこと一方的に怒鳴り散らしただけじゃん。
可愛い部下虐めてニヤニヤしやがって、「言ってみろよ」なんて。
何こいつ、何様? 俺様?
俺のイライラメーターは既に崩壊寸前であった。計り知れずそのまま宇宙にでも飛んでいきそうなほど怒りは上り詰めていた。
俺は唇を噛み締め、震える両手を後ろに握りながら、
「申し訳ありませんでした、
御指導ありがとうございましたッ!!」
と、絞り出すような声で言い切った後、
すぐさま会議室を出たのだった。
いやはや。
俺がこの半年間で一番、
桐嶋相手に(心の中で)ブチ切れた瞬間だった。
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