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純粋に嬉しい
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「なんですか、どこですか、どの辺ですか?」
普段文句と嫌味しか言ってこないこの人が、俺を褒めることは出来るのか!?
というか、俺に褒める所があるのか!?
予想以上に食いついて来たからか、少し言いにくそうにする桐嶋さん。
俺が、「何だよ、嘘ですか」と口を尖らせると、むっとしたようにかぶりを振った。
それでも尚切り出さないで、
黙々と業務を続けているもんだから、俺は諦めて隣の席でぐったりと項垂れた。
…つまんねーの。
「もういいです。どうせ俺は欠点ばかりの男ですよ」
「はぁ? …犬みたいに拗ねんなめんどくせー」
「だって」
デスクに突っ伏した頭を傾けて、チラと様子を伺うと、
本気で心底面倒くさそうな顔をしている桐嶋さんと目が合った。
そして、「仕方ねぇな」と溜息をつかれる。
「……お前は………
ミスは多いし、注意も聞かない。散々だ。
…が、何やってもダメな奴とは言わねぇ。
ふとした時に良い結果出してきたりするだろーが。…やれば出来るんだよやれば。
……期待はしねぇけど頼りに出来る、そういう社員だと思ってる」
「……!!」
一語一語、落ち着いた声色で陳ずる桐嶋さんに、俺は目を点にしてその場に固まった。
そして次の瞬間に、
その言葉が頭の中で再生されて、何度も何度も繰り返された。
期待はしないけど頼りに出来る…
頼りに出来る…
最早そのフレーズしか頭に入って来ない。←
と同時に、意外過ぎる言葉なだけに、言われた事実が嘘のように感じる。
俺としては大事件なのに、
桐嶋さんはすぐに何事も無かったかのように作業を再開するし、唖然としている俺をうざったそうにしていた。
「…何か言えよ、殆ど無いに等しい長所見つけてやってんだからな」
「や、もう、あの俺…
嬉しいというか何というか…
ありがとう、ございます……」
いやいや、
この人、部下の褒め方男前過ぎやしないか。
今のは一生忘れられない、昨晩の事件よりもよっぽど気分が良かったのだから。
あんな事どうでも良くなるくらい、
今この人を嫌う感情を忘れてる。
なんて単純で幼稚で短絡的思考なんだろうと嫌になるほど自覚する。
嫌になるけど俺今超嬉しい…!
「何照れまくってんだよ、気色悪い顔すんな」
「んな顔してませんし!
…普段厳しい人に褒められたら、誰だって嬉しいですよ」
いつも怒鳴ってばかりの癖に、そんな突然優しさ見せられるとか、聞いてない。
俺が女社員だったら、絶対惚れてた。
というか、この人が密かにキャピキャピ噂される理由がちょっとわかった気がする。
「ま、お前みたいな奴でも評価すべき点はあるってことだ。だからもっと、こう…
しっかりやりやがれ!」
バンッと思い切り背中を叩かれて、俺は「はい、ありがとうございます」と何度も頷いた。
俺、今ならちょっとだけ、
可愛い後輩になれる予感がしますよ。
桐嶋さん。
ーーーーーーーーーーーーーー
その晩は10時以降の帰宅になったが、
俺はすっかり寝付いてしまうまで、
ずっと気分が良かった。
あんな昨日のオフィスでの事より、
早く桐嶋さんに褒められたことを皆に自慢したくて、一晩中うずうずしていた。
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