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お休みなさい
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「桐嶋さーん…上がりましたー」
シャワーを終えて、出来るだけ風呂場を綺麗にしてから部屋へ向かう。
物がなくシンプルとはいえ、
洗濯機に引っ掛けてある洋服や洗面所のコップに立ててある歯ブラシやを見ると、
やはり生活感が溢れていて、何だか安心した。
ちゃっかりワックスや整髪料も見つけて、
これであの髪型が出来上がるのか、とか一人で面白がっていた。
…というか当たり前だけど、
風呂上りのために借りた服が、
めちゃくちゃ桐嶋さんの匂いなんだけど。
人のものってだけで落ち着かないのに、
よりによってあの人のって……
…っていうか。
なんかもう俺…
桐嶋さんの家で桐嶋さんの服着て、
一体何やってんだろ… … …
「あれ…寝ましたか…?」
「寝てねーよ」
部屋に入ると、
突然後ろから声がして、思わず「うひゃ」と間抜けな悲鳴を上げた。
「何でベッドに居ないんです?!」
「るせぇな…
水ぐらい飲ませろ」
どうやら桐嶋さんはキッチンに行っていたらしい。
そういえば飲み物を用意してなかったな、と申し訳なく思いつつ、俺は怒った口調で続ける。
「横になってなきゃ駄目ですよ。
…眠れそうにないなら、一晩付き添ってでも看病しますから」
「は? やだよ」
俺の精一杯の誠意は、あまりにもバッサリと拒否られてしまった。
まぁ、この人ははどうなるかわからないけど、俺は明日も会社なんだし…
そろそろ寝ないといけないんだけどな。
ふと桐嶋さんの歩く先に目を向けると、
あろうことか、彼のベッドの横に、
きっちりと布団が敷いてあった。
「…まさか俺の分、敷いてくれたんですか?」
「いいだろ別に。これ以上口うるさく言うなよ。
言葉で場所説明するより、自分でやった方がよっぽど楽なんだよ」
この人はそう言うが、やはり俺を気遣ってくれているんだろう。
何この人、熱があるにも関わらず、優しい所あるじゃん。
それはそうと……
「……あの。
俺こんな近くていいんですか…ね」
ほぼベッドに密着する距離で布団が敷いてある。
それはそう、言い表すのなら…
この人がベッドから降りると、まず俺を踏みつぶすことになる。
…って程度の距離感だ。
俺の指摘に、
桐嶋さんは「いーんだよ」とかてきとうな返事をして、ベッドに潜り込んでいく。
「隣にいた方が、夜中に起きた時こき使い安いだろうが」
ですよねー…
なんだよ。
風邪引いてしんどくて、ちょっと一人が心細くなったのかと思ったのに。
この人に限ってそれはなかった。
俺は素直に感謝して、
見るからに柔らかそうなこの布団を使わせてもらうことにした。
「…今度こそ寝ますか。
お休みなさい」
「おう」
眠た気な返事が返ってきて、
それきり部屋は静寂に包まれる。
眠れてたまるかと思っていたが、
少しずつ今日の出来事に整理がついてくると、落ち着いて、瞼が重くなってきた。
…そういえば思い出したが、
俺にはいつでもどこでも眠れてしまうような、無神経な所があった。
(今日はほんと…大変だったな…)
そんな事をぼんやり考えながら、ウトウトと微睡み出す俺。
今に意識が遠のくぞという時…
出し抜けに、右頬がグイと摘まれた。
「いでっ」
「桜庭。…言いたいことがある」
見上げるベッドから、桐嶋さんの腕が伸びていた。
その手は俺の頬を摘んだまま、ぐにぐにと弄んでいる。
…痛いんですケド。
「な、なんれふか……」
「……その」
この人何かを言いにくそうにする時、急に大人しくなるよな…
辛抱強く待っていると、
ぱっと頬から手が離れ、
桐嶋さんが壁際にごそごそ寝返りを打つ音が聞こえた。
「色々……
ありがと…な」
「…っ」
それは短い言葉だが、
俺の心にじわりと響く。
ボソッと呟かれたその言葉に、「え? 何ですって?」と聞き返したいのを耐え忍び、
俺は一人、少し呆れたように微笑んだ。
…まったくだな。感謝されるに値する頑張りだったと思う。
病人の介抱だなんて、我ながら慣れないことをした。
…そして、前言は撤回だ。
今夜はほんとうにほんとうに、
良く眠れそうである
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