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先輩攻略のすすめ
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「…桐嶋さん」
あんな事があった後でも、
一緒に外回りに行かなければならないのが営業マンのさがというものだ。
平気のように車の隣に座って取引先に向かい、取引相手には素敵な笑顔を振舞って、また車に帰ればぶすっとした顔に戻る。
そんな一連の中、
俺と桐嶋さんはいつも以上に言葉を交わさなかった。
でも息苦しいのは嫌いだから、
沈黙の中、口火を切ってみたって次第である。
「……んだよ」
桐嶋さんは窓の外をぼんやりと眺めながら、無視するのも諦めて、呼びかけに答えてきた。
「…理解されるつもりはないですから、
俺のこと避けるのは、やめて欲しい…です…」
なんて。
あれほど盛大にドン引かれると、
こんな頼みにも期待は持てないけど。
当然だな。
2回も不本意にキスされた相手、それも男に。今まで通り接しろって方が無理な話だろ。
俺が懸命に伝えた言葉は、重い空気を更なるものにしてしまった気がした。
「…仕事のこともあるんだから、
一々避けてられるかよ」
……まぁ。確かに。
渋々といった返答が返って来たところで、
ちらりと桐嶋さんの方を見る。
何ともないような顔をしながら指で口に触れているのは、まだあのキスを気にしての所為なのか。
「あの……気持ち悪かった、ですか」
「そりゃな
二度とするなよ」
あれだけ取り乱して怒鳴った癖に、
今は落ち着いて、冷静に対応してくる。
完全に見放された気がして、寧ろ恐ろしい。
それにあの時の桐嶋さんの冷たい表情。
異端者を見るような、軽蔑の眼差し。
… … …内心、すげーグサッときた。
今世紀最大のショックだ。
地の底まで突き落とされたような気分だった。
「ねぇ、桐嶋さん……
好きです。多分」
ハンドルを握ったまま、
目は前方を捕らえたまま、
改めて整理をつけた気持ちを、初めて言葉として口に出したやった。
こんな微妙な形で、だ。
それを聞いた桐嶋さんはもはや、
勘弁してくれ、という風に笑っていたが。
「お前さ、馬鹿だろ。
なんで今言ったんだよ。…まぁ、いつだって変わりゃしないけどよ」
そうだ。
言ったところで、俺は呆気なく振られるんだろうよ。そんな事はわかってる。
それなら正々堂々と精一杯の気持ちを告げるよりも、てきとうに伝えて何となく流された方がマシだろう。
そもそも俺だってこの男に惚れたのは不本意なわけだし、
こんな投げやりな告白をする程度に、俺は捻くれた奴だったのだ。
「だって『そういう目で見てる』ってだけじゃ、確証ないでしょ。
まるで俺がただの変態みたいじゃないですか」
「心配しなくても、お前はただの変態だよ。
…はぁ。仕方ねぇ、今のは聞かなかったことにしてやるから……」
「桐嶋さん。好き」
「…お前」
無かった事になんてさせてやらない。
俺をこんな風にさせた罰さ。男に好かれた屈辱を永遠に背負って生きていきやがれ。
追い討ちをかけるように重ねて言うと、
桐嶋さんは流石に迷惑そうな顔をした。
「…それも、聞かなかったことにしてやる」
「嫌です聞いてください。
受け入れられなくたって、
俺が貴方を好きだってことはちゃんと知ってて欲しいんですよ!」
「うるっせぇ奴だな!んな事…
もう充分わかったってのッ…」
先程よりも落ち着いては見えるけど、やはりどうしていいのかわからないんだろう。
はたりと目が合うと、気まずそうに逸らしてくる。
言うなれば…
俺にされた唯ならぬ事や、
俺の持ってる唯ならぬ気持ち。
それをどうするべきかは強いらずに、でも返品不可で押し付けられた。多分そんな感じ。
実に、実に不憫である。
「悪いが…性別とか立場とか気にする以前に、
俺はな。お前のことが嫌いなんだよ」
「それは残念です。
でもほんと、
心を許して貰えるとは思ってないですから………
…今は」
「…どういうことだ」
にっこり笑いかける俺。
その聞き捨てならない言葉に、桐嶋さんは怪訝な眼差しを向けてきた。
誰が諦めるなんて言ったんです。
俺はただ、今俺の告白に応じてくれないのを認めただけだ。それだけだ。
「焦らずに、正攻法でいきますから。
だから…
ゆっくり絆されてみて下さいよ……」
言いながらすっと伸ばした手は、
思い切りはたかれてしまった。
「……は、言ってろばーか。
そうなる前にはどこかの婿にでも貰われてやるよ。近いうちかもな」
ならその近い将来までに「婿に行けない」と泣かせてやりたい。
にやりと笑う桐嶋さんは、
いつもの余裕の表情で。
女にちやほやされるのは迷惑がる癖に、都合の良い時だけ自慢気にするもんだから癪に障る。
それに…
そういう顔を見せられると、余計燃えてしまうってもんだ。
絶対俺のものにしてやる…ってね。
なんで好きなのかとか、
自分が本当にゲイなのかとか、
こんな形でいいのかとか。
…そんなことは後でいくらでも悩んでやる。
その程度の覚悟なら、いつの間にか持ち合わせていた。
…知らないうちに本気で惚れてる…って
有り得るならば、それは、
きっとこういう感覚なんだろうな
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思わぬ自由時間が出来たので、
すかさず更新しましたw
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