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甘ったるいのはお嫌いですか
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鼓動がうるさい。
思考停止した頭に対しフル活動している心臓が、とにかくうるさい。
俺は桐嶋さんの左手と顔を交互に見つつ、
「それって手を握れってことですか」と、もう聞きたくて聞きたくて堪らなかった。
なぜ彼が俺にそんな事をして欲しいのかなんて、もはやどうでも良かった。
とにかく本心の確認を取りたかったのだ。
けれども、良く考えてくれ。…
照れ屋なこの人にそんな答えを追求して、
この後に及んで「は? 何が?」とか誤魔化されたらどうするんだよ。
あり得る。すげぇあり得る。
こうしている間にも、桐嶋さんはコンクリートの淵を指で謎ったりしながら暇を弄んでいる。
これ以上間を置いては駄目だと察した俺は、様々な葛藤の末、
ついに覚悟を決めた。
「…ッ」
俺は街を眺めたまま、同じように街を眺める桐嶋さんの手に、
そっと触れてみた。
(これで…いいんだよな。
おかしくないよな…)
桐嶋さんは何も言わない。
とりあえず俺の行動は間違えてはいなかった。
さらに少しずつ指を絡めると、
その長い指は少しだけピクリと動いたが、
嫌がることをしなかった。
桐嶋さんは相変わらず何も言わないまま、片方の手を煙草にやる振りをして顔を隠している。
(うわ~…なんか、可愛いなぁ…)
俺だって人のことは言えないが、
手を握られただけで緊張している姿はなんだか微笑ましくて、不似合いで可愛らしい。
冷たく骨張ったのを包み込みながら、
俺の手が暖かくて良かった、としみじみ思った。
やがて、
ただされるがままだった彼の指が、おもむろに絡め返されると、
俺はもうその場でへにゃりと脱力してしまいそうなほど幸せだった。
「……暖かいですか?」
俺が緩みきった顔でそう聞くと、桐嶋さんは黙ったままこくっと頷く。
それだけでも俺の脳内はもはや落ち着くことを知らない。
手だけじゃ物足りない、今すぐにこの人を抱きしめてキスしてその場に押し倒してスーツの中に手を入れて…ってそんな衝動に駆られるが、
勢い任せに取った行動で得したことはないから、要我慢だ。
可愛すぎる上司の前で、
焦ってはならない欲張ってはならない、と自分に言い聞かせていた。
「…俺のじゃ、足りませんね」
覆い被した手は、残念ながら桐嶋さんの大きさに負けている。
少し落ち込んでいると、
咥え煙草の口から、はっと笑いが零れた。
「充分だっつーの。
はは…子供体温ありがてぇ~」
・
・
・
だからその笑顔はやめろぉぉぉ…!!
ただでさえ我慢しきれないような衝動を抱え込んでいるというのに、
なんで今日に限ってこんなに甘いんだよ。
なんで手握っていいんだよ。
何この人、何この状況…
少々気まぐれが過ぎるのでは…?!
「…ちょあの、なんか…
なんか、すっげぇ恥ずかしくないですか。これ」
「はっ……?」
俺の言葉に、ピクリと反応する桐嶋さん。
言ってから気づくが、迂闊だった。
こういうことは一度意識し出したら負けだから。
途端に桐嶋さんの顔は紅潮し、
俺も繋いだ手もろともかぁぁっと熱くなる。
うわぁぁ20代半ばの男2人が、
何この初々しい感じ…!!!!
恥ずかしい、世界一恥ずかしいよ俺ら!!
「ぅぅ、うるせぇッ…!
嫌だったら離せばいいだろ…
つーか、若干手汗ばんでんだよお前。緊張し過ぎじゃねぇの? だっせぇ」
「い、いやいやいや。
そっちこそさっきから手震えてますけど?
桐嶋さんともあろうお方が、こんなにウブで大丈夫なんですか?」
「馬鹿、ねーよ!! ねーから!!‥‥
あーーーもうお前ほんっと嫌い…
もっと離れろ、そっちいけッ!」
他にもなかなか酷い暴言を吐きながら、
軽く蹴りを入れてくる桐嶋さん。
言い争う声が大きくなって、少しずつ懐かしい雰囲気になってくる俺達なのに、何故か嫌じゃなかった。
さっきより距離を取りつつも、
手だけは絶対離さないから。
身体が離れるほど強く握り返してくるのが嬉しくて、俺は蹴られながら幸せを噛み締めていた。
…本当に俺を拒絶する桐嶋さんなら、
こんなこと、絶対してくれないだろう。
冷たい態度の後に、突然優しい部分を見せてくる。
それは飴と鞭も使いようなのか、あるいは飼い犬の餌付け程度なのか、俺にはわからない。
ただ、
一つ確かなのは、
自惚れる俺をわかっていて、わざと甘やかしてるってことだ。
この場合、
悪いのは どっちなんですか
「……桐嶋さん…」
「… …」
昼休憩が終わる数分前。
俺は桐嶋さんから短くなった煙草を取って、コンクリートに押し付けた。
その後、ゆっくり顔を近づけた俺に、
あろうことか、
この人は何の抵抗もしなかったのである。
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