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この子には手を焼いただろうなぁ…
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正直、
俺はそんなに面白い性格ではないと思う。外見が派手なわけでもないし、
こう言うとあまりに卑屈なようだが、
出会ってそんなに喜ばれるような人間ではないと思うのだ。
それでも優人くんは、
本当に嬉しそうな笑顔を浮かべて、
桐嶋さんと俺とを交互に見ているのだった。
「色々聞いてるよ。
たまに連絡取り合ってるんだけど、
寛人兄さんってば仕事の話するたび桜庭君の名前出すからさぁ〜」
「えっ…な、何だって?」
なんか今すごい嬉しい言葉が聞こえた気がする。
笑い飛ばす優人くんに思わず聞き返すと、
桐嶋さんがそれを遮るように俺達の間に入って来た。
「違…たまたま仕事の話題になった時に、たまたま使えない部下を紹介しただけの話だ…ッ
…つーか!お前はもう帰れ!」
「おいおい、久々の再会でそれはないだろ〜」
階段の方へ押し出そうとされるのに、必死で対抗する優人くん。
そのくりくりな目が助けを求めていたので、俺は少し迷った後で、
「優人くんは、何歳なの?」
と一番見極め不能な質問を投げかけてみた。
童顔華奢に、5人兄弟の末っ子という立ち位置。その情報を揃えてでも、具体的な年齢が見えて来ない。
「大学2年生ですっ!」
「へぇ〜」
み、見えねぇぇぇぇぇ。
年下で若いことに変わりはないけど、
高校生、下手したら中学生でもいけそうな乙女顔だぞ。
「…大学ってこの近く?」
「あー、いや。
地方に通ってるんだけど、冬休みに入るとつい寂しくなっちゃってさ…
下宿先から実家に帰って来たついでに、
兄さんの会社に寄ってみたってわけ。
お互い、最近会ってなかったしね!」
そう言った優人くんは「ねー」と桐嶋さんに笑いかけるが、思い切り無視されていた。
素直でお兄ちゃんっ子そうなのに可哀想。
「優人くんと桐嶋さんは…
兄弟で、あんまり似てないんだね」
話を発展させるため、最も触れたかった所に触れてみる。
あんまりというか血の繋がりがほとんど伺えないというか…
チラリと確かめると、
優人くんは、俺の指摘に爆笑していた。
「ぶはっ!
いやいや。5人の中で寛人兄さんだけだからね、
こんな強面〜
昔から怖いのなんのって!
もう初めてスーツ着た時なんか、
どこのヤクザかと思っ……………あ。」
話し途中で「しまった」と口を塞ぐ優人くんだが、
もうかなり手遅れだと思う。
次の瞬間には、
桐嶋さんに思い切り両頬をつねられて悲痛な叫びを上げていた。
「いだだだ!! もげる、ほっぺたもげる!!」
「相変わらず良く喋る口だなオイ…
俺見てそんな事思ってたのかよ…
それに! 相手が桜庭とはいえ、年上には敬語を使えって言ってるだろッ
お前もいずれは社会人になるんだぞ!」
桜庭とはいえってなんだよ。
聞き捨てならない部分はあれど、
長男が頬をつねりながら末っ子を嗜めている様子は、何だか微笑ましい。
ギリギリと爪を立てる手にやっと開放された優人くんは、
恨めしそうに桐嶋さんを見上げつつ、悪戯っぽい口調で懲りずに続けた。
「ふふ…こんな風だけど桜庭くん、
兄さんにすっっげぇ気に入られてるんだよ。
今日はミスしなくて偉かったとか、
今日は俺が奢ってやったとか、
そりゃもう俺へのメールで、日記のごとくつらつらと…」
仕返しと言わんばかりの悪い表情を見せる優人くん。
「へぇ!?」と変な声を上げる俺。
ぎょっとして固まる桐嶋さん。
…いや、ちょっと待てよ。
今なんかまたすごく嬉しい言葉が聞こえた気がするんだけど…幻聴?
「ば、馬鹿!!
誰がいつそんな話を…」
「えぇ〜履歴あるけど〜?」
「ああああ!! やめろ、要らん!!」
…この末っ子、なかなかのやり手である。
おもむろに胸ポケットから携帯を出していじり出すのを、桐嶋さんはかなり焦ったように制止していた。
そして、思わずにやけている俺を見ると、
ものすごい睨みを向けてきた。
「〜〜〜ッくそ、
お前も笑ってんじゃねぇぞコラァ!!」
「ぁはは、
すいません余りに意外で…」
余りにも意外というより余りにも嬉しすぎて、自然と笑みが…
弟さんにそんな話してたのか…!
おそらく絶対口外されたくなかった事実を暴露された桐嶋さんが、赤くなって抗議してくるのが、とても可愛い。
何だよこの上司、ツンデレ極め過ぎだろ。
危険だよ、もはや武器だよその性格は。
さり気ない部分にいちいち心臓がもたない…!
「ま。こんな取っつきにくい兄さんだけど、
ちゃんと優しいし、部下愛は強いんだって!
てなわけで、
これからも桐嶋寛人を、何卒よろしくお願い致しします」
優人くんは元気よく桐嶋さんの肩に手を置いて、
また、深々と頭を下げる。
何故そこで急に礼儀正しくなるのか…
不満そうな桐嶋さんを見ると、苦笑いしか浮かばない。
それでも、
笑いながら背中をバシバシ叩かれて、
額に青筋を立てつつ何とか耐えている姿を見るに、どうやら兄弟にはちょっと甘いように伺われた。
「はいこれ差し入れ!
兄さんの好きなシュークリームだぞ〜
大量にあるから会社の人と分けてね。もちろん桜庭くんにも!」
立ち尽くす桐嶋さんに白い箱を手渡して、
腕時計を確認すると…
乗りたい電車でも逃したんだろうか。
「やっべ」と血相を変える優人くん。
「俺もう行くわ!
また今度飲もうぜ、寛人兄さんのお金で!
じゃっ、お仕事お疲れ様で〜す」
ビシッと俺達に向かって謎の敬礼をしてから、
優人くんは勢い良く階段を駆け下りて行く。
そんな様子を眺め、俺はただ一言…
「なんか、嵐のようでしたね」
と呟いた。
優人くんが居なくなってしばらくの間、俺達は何も言わずただオフィス前の廊下に立ち尽くしていた。
桐嶋さんは壁に拳をめり込ませ、
「あのガキ、覚えとけよ…」とその怒りをあらわにするも、差し入れの箱だけは大切に抱えている。
まぁ確かに。…
あの桐嶋さんとあろう者が、
弟さんに好き放題言われたもんだ。
それも俺の前で。
かわいそーに。←
「でも…俺は嬉しかったですよ?
寛 人 兄 さ ん」
「っ…!!」
笑いながらからかうと、
俺の尻に、
鋭く容赦のない蹴りが食らわされた。
ああ、今日は良い1日になりそうだ
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