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「当たり引きましたね」「嬉しくねーわ」
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…とまぁ、そんな今朝の件も含め、
1週間弱ずっと答えを待たされ続けている俺は思う。
桐嶋さんって、もうぶっちゃけた話、
俺のこと、普通に好きなんじゃないかなぁ…
とか、ね。
いやいやいや。
生意気かな? 自惚れ過ぎ…?
多少脈ありなことは、屋上でキスした日からわかってる。
それでもちゃんとした言葉が聞きたかったから、こうしてずっと待っているわけで、
逆に言うと、
今更になって「悪い、あの時はどうかしてたんだ」とか拒否られる可能性だって十分にあるのだ。
俺があといくらか男相手を口説くのに慣れていたとしても、
彼を手に入れるのは至難の業なんだろうし、一筋縄ではいかないことだと思う。
…そんな事はわかってる。
わかっていても、そろそろ返事を下さらないと、俺の方が限界というか。
「おい桜庭ぁ!! ちょっと来い!!」
「はぁいっ(めっちゃ笑顔)」
他社員に『呼びつけられて説教喰らう顔じゃねぇぞ…』と噂されたりするし。
…日に日に好きになっていくせいで、
もう元に戻れそうにないというか。
この人に完全に振られた日には、
もはや会社を辞めるしか俺の思いを絶つ方法は無いのかもしれない。
その位…俺はいつの間にか、
この桐嶋寛人に本気になっているのだ。
ーーーーーーーーーーーーーー
「桐嶋さん」
「……何だよ、怒られ足りねぇのか?」
ジロリ、と悪い目つきがこちらを捕らえる。
毎度ながらの説教を終えた桐嶋さんは、
既に自分の作業に取り掛かりつつ、合間に片手で礼のシュークリームを頬張っていた。
そういえばさっき俺が、この人の代わりに社内中に配ったんだっけか。
俺はシュークリームってキャラじゃねぇから駄目だとか訳のわからん事言って押し付けられたのだ。
あまりに真面目な顔で頼まれたもんだから、そんなことを気にするのかよって、笑いを堪えるのに必死だったよ。
「いやぁ…美味しそうに食べるなぁと…」
「ふん、そうだな。まぁまぁといった所……
ゔっ…ぐ!!」
そんな桐嶋さんの様子は、
苦痛な声と共に急変した。
さっきまで満足そうにもぐもぐさせていた口の動きは停止、顔は青ざめ、その後すぐ今度は赤くなった。
この人の口内で、
一体今何が起こってるんだ…!?
俺は酷くむせこみ涙目になる桐嶋さんの肩を、ガクガクと揺すった。
「きっ、きき桐嶋さん…?!」
「劇物だ…毒を盛られたッ!!」
「え、いや、うそぉ?!」
周りの目を引かないように、超小声で会話する俺達。
菓子に毒を盛るって…このお土産をくれた末っ子ボーイ、優人君がか!?
あの弟は犯罪者なのか…!?
俺は慌てて、
喉を抑え突っ伏している桐嶋さんの、残り半分のシュークリームを採取した。
調べてみるとそこには、
カスタードクリームに紛れ、山吹色のペーストと緑色をしたペーストと赤黒い物体が、
べったり塗りこまれていたのだ。………が。
・
・
・
え、これって。
「桐嶋さん…マスタードとワサビ、それに唐辛子です」
間接キスだと調子に乗って、その表面をペロッと舐めてみる。
結果、
すげぇ辛かった。舌がヒリヒリした。水が欲しくなった……つまりは香辛料だ。
俺の慎重な言葉を聞き、
桐嶋さんは悔しそうにデスクを叩く。
「そ、そうだった。
優人は同じ菓子を配る際に、必ずロシアンルーレット式にする癖があるんだった…」
「どんな悪癖?!?!」
「あの野郎…
カスタードを穢した罪は深いぞ…」
「そこっすか!!」
名残惜しく激辛シュークリームを見つめる桐嶋さんに、呆れかえる俺。
…それに、
手作りでもなくしっかり包装された物に、どうやって香辛料を混ぜ込んだんだ。
天使のような顔して、あの末っ子…恐るべし。
会社への差し入れなんて気の効いたこと出来る子だなぁ、と感心していたのにも関わらず、
今まさにその関心を裏切る状況が発生したようだ。
桐嶋さんならともかくとして。
これ激辛シュークリームが他の社員の手に渡っていたら、一体どうなったんだろうか。
……はは。それはそれで、ちょっと面白いな←
「やべぇ……は、吐くッ…
ちょ、トイレ…!」
ガタリと立ち上がった桐嶋さんは、口元を庇いながら足早にオフィスを出て行こうとする。
「え…だ、大丈夫ですかほんとに…」
その余裕の無さが心配になって、
俺も思わず、トイレで吐かんとする人の後を追いかけた。
鬱陶しそうな目を向けたこの人に、「着いて来んな」と怒鳴る余地はもはやなかったらしい。
上司と一緒に、
本来以外の目的でトイレに向かったのは、
実に、これが2度目であった。
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