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不本意な本意
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そう言って、
桐嶋さんは俺の肩を掴み返してきた。
その強い力にはよろけそうになったが、
決心を固めているようだったので、
大人しく見守ることにした。
やがて、
何かに耐えるように震えている桐嶋さんが、俯き加減で口を開いたのは、
実に数秒後のことだった。
「…いつの間にか俺は、
社会的に普通じゃねぇとかこれから先のこととか、んな面倒なこと考える余裕すらなくなっちまった……
毛嫌いしてたお前が、たまに可愛い後輩に見えるようになった。
一緒に居ると、ムカつくほど落ち着くようになった。
全力で拒否してたはずが……いつしか、
こいつには離れてって欲しくねぇって……」
下手をしたら持っていかれるんじゃないかってほど、肩に置かれた手には凄まじい力が加わっている。
そんな痛みも、今の俺にはお構いなしだった。
お構いなしと言うよりは、
あまりにも呆然とし過ぎて、自分の身に起こっていることの理解が遅れていたのだ。
「桐嶋さん……それで…?」
出来るだけ優しく落ち着きを持った声で促すはずだったのに、ついつい俺の言葉も震えてしまう。
こんなにドキドキしたのはいつ以来だったか。
いや初めてなんじゃないのか。
どぎまぎする俺に、
桐嶋さんはどうもためらったような口調で続けた。
「…あーもう最悪だ…
酒飲んで、何もかもどうでも良くなっちまった頃合に全部吐き出してやろうと思ったのによ…‥‥
たった一言の為に、なんでこんな緊張しなきゃなんねぇんだよ…
かっこ悪ぃことばっかじゃねぇかッ」
張り詰めた空気の中、
桐嶋さんから自嘲的な笑いが漏れる。
顔を俯けたこの人の耳が赤く染まっているのは、お酒のせいなのか。
…それとも… … …
ぎゅっと肩を持っていた手が、
ゆっくり俺の襟元に移動した。
そのまま胸ぐらを捕まれ勢い良く引き寄せられた時には、
俺はとんだ間抜け面を晒していたことだろう。
「ほんとあり得ねぇよ、くそ…
こんな…こんなの、全部……
お前なんか、
好きになったせいだからな…!!」
「……ッ」
差し迫った声を上げてから、
ずるずると俺その場にくずれていく桐嶋さん。
「どうしてくれるんだよ」とぼやきつつ、俺に頭をもたげてくる。
その後ふと上を向いて、やっと拝むことの出来た顔は、
いつものような仏頂面をきめきれていなかった。
今にも泣き出しそうな、言い切って安心したような未だ不安なような、
切ない表情。
それがあんまりにも綺麗で、可愛くて、
ちゃんと目に焼き付けておきたいって思うのに、
俺の視界は、
みるみるうちに霞んでくるのだ。
「…あれ、うわ…
なんか俺、なんか…なんでだろ。
すいません…」
じわりと熱いものが溢れる目元をゴシゴシと拭う。
何してるんだ俺。
きっともう二度と聞けない、
桐嶋さんの一世一代の告白に、泣いてるんじゃねぇよ。
俺の方が充分かっこ悪いじゃないか…
それでも俺は、
涙を隠すように桐嶋さんを抱き寄せて、
切羽詰った気持ちを誤魔化すように笑った。
「ぁはは…残念だな
俺は桐嶋さんを好きになって、幸せなことばかりなのに…
…好き…好きです…
未来永劫、ずっと好きです。
貴方のそばに、居させてくれませんか…?」
ふわふわした頭の中で、言葉を選びもせず、ただひたすら思った事を口にするなんて。
この人の前では、
俺はどこまで素直な人間になれるんだろう。
俺の何度目かも知れぬ告白…
桐嶋さんはすぐに答えることをしないかわり、恐る恐る、俺の背中に腕を回してきた。
「んなこと
確認しなくても…
どうせもうお前には俺しか居ねぇよ。
未来永劫、保証してやる。
………もういい。それでいい。
…だから離れんな」
強気な言葉とは対称に、柔らかい笑みを見せてくれる桐嶋さん。
俺、今なら死んだっていいや
俺は声に表せないような幸せを噛み締めて、
このどうしようもなく愛しい人を、
力任せに抱き込んだ。
「…桐嶋さん
キス…していい?」
「……好きにしろ」
どんな気持ちにも 邪魔されない。
お互いが好きだ、って…
今は、
それだけで十分だ。
「俺を受け入れてくれて、ありがとう」
後数ミリの距離で囁くと、
返事の代わりに、その瞼が伏せられる。
俺は同じように目を閉じて、
甘んじる桐嶋さんの優しさを、
ゆっくりと、時間をかけて味わった。
赤く色づいた照れくさそうな顔が、
近づくほど期待に揺れる瞳が、
抱きしめて触れ合ういつもより暖かい体温が、
きっと今夜を、
一生 忘れられない夜にした。
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