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本当は手を繋いで出社したい
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翌日。
ほぼ一睡も出来なかった俺は、待ちきれずアラームの10分前に桐嶋さんを起こし、
一緒に朝の支度を済ませた。
二度目のこととはいえその一連があまりに当たり前のようだったので、
俺ら夫婦みたいだなとかちょっと思った。
余裕を持って朝食を取った後、
桐嶋さんの車に乗せてもらうと、たわいもない会話を交わしながら仕事場に向かった。
ーーー
「今年最後ですね~
今日1日は絶対ミスしません!」
「今日はってお前…
…あ。ちょっと待て」
気合を入れ直し、いつもより気分の良い出社を迎えようとしたその時、
突然背後からがしっと肩を掴まれた。
「ん? なんですか?」
「桜庭。わかってるとは思うが……」
咥え煙草を口から離し、
振り向いた俺のネクタイに手をかけると、自分の方へ引っ張ってくる桐嶋さん。
その眉間の皺は深く、
やたらと真剣な目を向けられて、
俺は思わずごくりと喉を鳴らした。
「俺達のこと……絶っっっ対、
誰にも言うんじゃねーぞ」
おいおい何を言い出すのかと思えば。
必死な様子に笑ってしまった。
「いやいや、言いませんって~」
「浮かれてるお前は、ほんと危なっかしいからな」
「も~大丈夫ですって~」
昨日はあんなに懐深くて優しい感じだった桐嶋さんが、今は打って変わってつんけんしてる。
打って変わるというか、
元に戻ったというか通常運転というか。
何にしろ、
ここにいるのはいつも出社時に見る気の締まった桐嶋さんなわけだが、
心なしか落ち着きがないようにも伺える。
「…なんか緊張してません?
ここ、いつもの会社なんですけど」
「は、はぁ? してねーし…
そう言うお前はさっきからにやけ過ぎなんだよ、その顔なんとかしろ」
「にやけてませんし~
ちょっと幸せなだけだし~」
返しにならない言い訳を述べると、ぺスッと頭を叩かれた。
「はぁ…もう俺先行くから。
時間差で来いよ。絶対着いて来んなよ、いいな」
「はいはい承知致しましたよ」
まったく、
なんで今更通勤時刻まで気にしなきゃならないんだか。
一緒に来たっていいじゃん、仲良いんだなって思われて済む話だよ。
…やたらと意識してるのは、
ちょっと可愛いけどさ。
1人用もなく置き去られた駐車場。
車のそばで控え、桐嶋さんの背中を眺めながら、
昨夜の出来事を脳裏に蘇らせていた。
本当に、最高の夜だった。
…全然眠れなかったけど。
荒っぽい告白も、不器用な表現の仕方も、
あの後抱き心地の悪い抱き枕にされたのも、
大雑把であの人らしくて、
でもしっかり愛を感じるというか。
こうやって放置されたりした時は、
そりゃ多少寂しい思いもするけど。
そんなブレないこの人が好きだ。大好きだ。
無意識に口を突くようなその気持ちを抱えたまま、果たして俺は…
これからずっと、周りにこの気持ちを隠し通せるのだろうか。
そんな幸せに満ちた不安を胸に、冷え込んだ朝の寒空を仰ぐ。
「…ぁ、そうだ」
やがて、
思い出したように再び目を向けると、
離れた所に居る桐嶋さんも、
何故か振り返ってこちらを見ていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「桐嶋さーん!
今日も残業付き合ってくれますか?!」
「始める前から残業の話すんじゃねぇよ馬鹿!!」
大晦日と年明けをすぐそこに控えた、
12月末…
今日ではれて俺達は、
仕事納めです。
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