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オフィスとかもはや嫉妬の宝庫
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抜け目ないように見えて案外隙だらけの桐嶋さんに対し、
唯一安心出来るのが、女関係だ。
社内でもこれでもかってほど言い寄られる色男が、女には疎い。さして興味を示さない。
そんな嘘みたいな一面が、彼には存在する。
ただしモテるのは自覚しているから、そこがちょっと腹立つ部分なんだけど。←
『すいませ~ん
ちょっとわかんないんですけど…』
カタカタとPCを叩いていると、
度の過ぎたねこなで声が耳をついた。
あーあ、
今日も相変わらず『桐嶋先輩』は人気者だ。
何かしら理由をつけて彼のデスクを訪れる女性社員が憎い。
自分で考えれば良い事を聞きに行く…
なんてのは、新人であれば尚も有利な口実だ。
気安く構うな、
その人は俺のもんだ!!!!
…この心の声をオフィスで叫んだ日には、
きっと強制辞職の刑が課せられるのだろう。
だから我慢だ。
大人しく指咥えてその光景をガン見しておく他はないのだ。…
「この前教えなかったか? それは… …」
『ぁ、なるほどー』
桐嶋さんの前に立つ社員は、完全に恋する乙女の顔である。
かくいう桐嶋さんも、女性にはそこまで強く当たれなかったりする。
本人に気がないからこそ安心出来るものの…
これでは彼に落ちる者が増えるばかりだ。
(くそぉぉ桐嶋さんんん……)
凄い形相で会話の先を睨みつけていると、
それにふと気づいた桐嶋さんが、
小さく咳払いした。
「…悪い、もういいか。
ちょっと今立て込んでるから…」
『あ、ハイ!
すいません、どうもありがとうございましたっ』
少し厳しくなった口調が聞こえると、
女性社員は足早に去って行った。
その後で、「これでいいだろ」と言わんばかりに呆れた目を向けてくる桐嶋さん。
満足だ。
でもまぁ、
あくまで仕事の会話だったわけだし、
それで嫉妬はちょっと見苦しかったかな…
…という気もせんでもない。
『すいませんでした』
そんな謝罪の意を込めて、
申し訳なさそうに苦笑いすると、
桐嶋さんは一気に不機嫌顔になった。
…俺に睨まれた時はちょっと焦ってた癖に。
あの目はこう物語っている。
『全くだ。仕事場なんだから他社員と話すことだってあるんだよ、一々妬くなみっともねぇ。
つーか仕事に集中しろ。つーかこっち見んな』
ほら、
目つきだけで完全通訳出来るようになった。(!?)
この会社で、
俺以上に彼をわかってる奴なんて居ない。
絶対居ないのだ。
「桜庭君…
なにガン付け合ってんの?…桐嶋さんと」
「明海さん?!
い、いや、何でもないよ…はは…」
突然話しかけられ、回転椅子ごと倒れそうになる。
明海さんは一際感の鋭い子で、
俺達の関係に、ふとした拍子に一番気づきやすそうな危険な子だからだ。
俺が焦ってチラリと横目に見た時には、
桐嶋さんは既に黙々と作業を始めていた。
ファイルやら何やらで、
あからさまにこちらに向けて壁を作りながら。
(もう会社では俺とは一切関わらないつもりだな、あの人…)
そんな態度取られると、
どうもムッとするし、
逆にちょっかい掛けたくなるってもんだ。
俺はにやりとほくそ笑みつつ、明海さんの方へ向き直った。
「そんなことより明海さん、
俺の朗報聞く?」
「ぉ、なになに~?」
意味ありげに声をひそめて満面の笑顔を浮かべてやると、身を乗り出して食いついてくる明海さん。
気を良くした俺は、
今度は割と大きな声で、それは誰かさんの所にも届くような声で、
「俺、恋人出来ちゃった」
そう言って、
照れた振りして自分の頭を掻いてみた。
バサバサバサッ
少し離れたデスクで、大量の資料が、
見事に雪崩れた音がした。
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