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騒然たるランチタイム
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12時ぴったりお昼時。
俺達はアパートから徒歩10分、
そんな素晴らしい距離感に位置している、
俺超オススメのラーメン屋さんに来ていた。
舌が肥えているとは言えないが、
1人の男として、学生時代から何十、何百のラーメンを食べ比べてきた俺…
その中でも、
この店だけは譲れないという程の絶品ラーメンを振舞ってくる、
そんな隠れた名店がここなのだ。
一束啜ればモチモチ、だが一本ずつがしっかりした喉越し最高の麺に、
コクが深く、口にすればどの味でも夢を見せてくれる至高のスープ…
どうだ、君もラーメンを啜りたい気分になってきただろう。…
「…うわ、最悪。しくった」
・・・
そんな何度目かも知れない来店に、何度目かも知れない熱い期待を抱いている俺の隣で、
今……
割り箸の綺麗な割り方に悪戦苦闘している男がいた。
「ぁ、これお前のだから。
俺が割ってやったんだ光栄に思え」
「……はい。あざっす…」
さり気なく、
失敗して極端な太さに割れた2本を俺の方へと寄越してくる桐嶋さん。
そしてまた、新たな細棒に手を出す。
…繰り返し。めちゃ勿体ない。
俺ら2人で、一体何刀流する気なんだろうか。
そういえばこんな、
無駄な部分で神経質な所もあったよな…
初め寿司屋に行った時も確か気にしてた。
「箸の割れ具合なんてどうでもいいですから、
ここのラーメンの美味しさ堪能してくださいよ」
ほら、
今カウンターの向こう側でニコニコしてる店員さんも絶対そう思ってるよ。
「てめぇ馬鹿にしてんのか」
「あーもうはいはい、
してませんしてません」
…まったくどうしようもないなこの人は…
終始そんな感じで、
桐嶋さんと何セットかの失敗箸(やはり勿体ない)と共に待ち続けると、
注文後割と時間が掛かってから、
頼んだ品が運ばれて来た。
「結構待たされたな…」
やっと満足のいった綺麗な箸を構えながら、桐嶋さんはすっかり空腹に項垂れている。
「ここ人気だし、お昼時ですしね〜
桐嶋さん何にしたんですか?」
「味噌。…俺は味噌以外認めねぇ」
うわぁ
食の好みまで頑固一徹かよ…!
その後も桐嶋さんは、
俺の頼んだ塩ラーメンに散々文句を吐いて、さり気に「だからお前は塩顔なんだよ」とか訳のわからないフレーズを聞かせたのち、
カチンと来た俺が一口分けてやれば、
「…塩悪くねぇわ」と勝手に新たな扉を開き出していた。
「つーか、やべーめっちゃ美味い。
桜庭の癖にいい店知ってんじゃねぇか」
冷ましに冷ましたラーメンを啜りつつ、
満足そうな笑顔を向けてくる桐嶋さん。
その麺が伸びていないのか心配ではあるが、喜んでいただけたならこの上なき幸せだ。
「また来たいでしょう?」
「あぁ。…まぁこれの為なら、またお前ん家に来てやってもいいな」
自営業で他に店舗はないし、
桐嶋さん家からじゃあまりに遠いもんな。
まさかラーメン屋を口実にされて俺の家に来ようとするとは、予想外だったけども…
それでもいい。また来て欲しい。
でもってまた一緒に出掛けたり、食事したい。
今度は地元の店回って、食べ歩きとかしたい……絶対超楽しい。
そんな新しいデートプランを妄想しつつ、
もぐもぐと口いっぱいに頬張っていると、
突然隣の味噌ラーメンのお方が、
思い切りバシバシと背中を叩いてきた。
「痛っ! ゲホッ…なっ
なに、どしたんですか?」
「あ…あれ見ろ、あれ…」
その焦り様とは対照に、
ひそひそと小声で知らせてくる桐嶋さん。
俺はなんだなんだと怪訝に思いつつ、言われた通りのカウンター席に目を移した。
「ん?」
…どうしたんだ? ただの女の子じゃん。
パッと見る限りは20代と伺える。
堂々とラーメンを啜る姿は、1人ラーメンに慣れていそうなベテランと見た。
もっと特徴を挙げれば、
肩に及ばない長さの茶髪ショートヘア、
また勝気な目が幼げで可愛らしく…
…って。あの子、まさか…
・
・
・
・
ガタッ
「あああ明海さんッ?!!(超小声)」
「ま、まさか!! 嘘だと言え!!(超小声)」
あろう事か…
2mに満たない向かいのカウンターに、
特大サイズのラーメンを食す我が営業部の一員、
あの明海友梨が座っていたのだ。
「………よりによって、
一番気づかれたくねぇ奴に…」
俺の私服を身にまとった桐嶋さんは、
今の状況を把握し、
ダラダラと妙な汗を流しながら、
出来るだけ顔を伏せ、
再び静かにラーメンを啜り始める。
そして俺から少し椅子を離し、
まるで赤の他人かのような雰囲気を繕いつつ、
横目にこちらを鋭く睨みつけてきた。
「おい桜庭…
俺達って周りから見て、
新年早々2人でラーメン食べに行く間柄なのか」
恋人として、
当たり前のように一緒に過ごしている俺達だが、良く良く考えれば考えるほど、
それはおかしい事である。
「い、いやぁ…
会社ではそうは思われてませんけど…仲良しってことでいいじゃないですか。
たまたま会ったとか!
ただの友達ってことで!
……………いや。
やっぱ友達は無理ですね」
やべ…
「あの…………桐嶋さん。
がっつりキスマーク見えてます」
・・・
「……はぁァッ?!?!」
Vネックが少しばかり深かったようだ。
桐嶋さんの上げた声に、
ピタリと箸の動きを止める向かいの女性。
あの茶髪ショートが、
こちらにいつもの活発な目を向けて来るまでは、
あと僅か2秒であった。
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\(^o^)/オワタ
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