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惚れた腫れたで恋は出来ても
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「会社のやつに…バレた…」
店を出た桐嶋さんは、最早放心状態だった。
家と全く反対方向にふらふら歩いて行ったりするんだから、困ったもんだ。
「桐嶋さん、しっかりしてくださいって。
明海さんなら絶対大丈夫!」
「だっから何なんだよその、
あいつへの絶対的な信頼はッ…
あんな口の軽そうな女…不安で仕方ねぇ」
そんな言い方しなくても…
そういやこの人明海さんに苦手意識持ってたっけ。
ずかずかと先を歩いて行く桐嶋さんを追いかけながら、俺は改めて考えた。
深く考えたことなかったけど、
というか敢えて考えないようにしてたけど、
男同士って、
そこまで気にしなくてはならないほど、
型破りなものなんだろうか?
「あー最悪最悪最悪……
着いてくんな!」
「いや、帰ってるの俺の家なんで…」
あーあ。
完全にご機嫌斜めじゃないか…
店では流れで言っちゃったっぽいけど、
こういうこと、人一倍気にしそうだもんな。
社内恋愛が許されている俺達の社で、
もし相手が俺でなくごく普通の女だったとしても、桐嶋さんはその恋を公にはしたがらないんだろう。
そして。
さっき気づかれたのが明海さんではなくて、
もっとお喋りで噂好きの人だったとして、
俺達の関係が会社に知れ渡りでもしたのなら……
俺はいい。
皆が桐嶋さんを見る目が、変わってしまうかもしれない。
そんな事で会社での立場を無くしてしまうことだって、充分に有りうるのだ。
そうすると、この人は…
この人は、俺のことを… …
「っは? おい…ッ!?」
気づけば衝動的に、
前を歩く桐嶋さんの腕を掴み、近くの裏路地に連れ込んでいた。
「ちょ、離…痛ぇなッ
何なんだよ!」
薄暗く寒い路地の中。
少し歩いた所で、思い切り腕を振り払ってくる桐嶋さん。
訳がわからないという顔で俺を睨みながら、地面の砂くずを蹴りつける。
…やっぱり、凄い怒ってる…
「…こう…ましたか」
「あぁ?」
俺は懲りずにその手を取って、
思ったことをボソボソと呟いた。
「男の俺と付き合ったこと……
後悔しましたか」
「なっ…」
沈み込む俺に、
予想外の言葉だったのか、目を見開く桐嶋さん。
暫くの沈黙が流れた後、
俯いたその口からため息が零れた。
「…………して、ねぇよ…」
するわけねぇだろ、と
そう加え伝えられた言葉の先で、いつもの仏頂面は複雑な表情を見せていた。
「俺だって、そんな安易な気持ちでお前を選んだわけじゃねぇ………ただ」
顔を上げた桐嶋さんの鋭い目が、真っ直ぐに俺を捕らえる。
思わず息を飲んだ。
「俺達はおかしいんだからな。
周りからの理解があったって、
世間体の目で見れば、結局はどうかしてる奴らなんだよ。……んな事は俺もお前もわかってる。
だからこそ…
この関係は、他言しちゃいけねぇんだ。
…お前とずっと…一緒に居てぇんだよ」
その真剣な面様は、
心がぎゅっと締め付けられるような切なさ、憂いをも含む。
この人に示された事実は、
何からも守りたいほど大切なものならば、
ただひたすらに隠し続けねばならないのだということだった。
本来普通であってはならない、この関係を…
「すいませんでした。
彼女なら大丈夫とか…
勝手なこと言っちゃって」
情けなくなった俺が静かに謝ると、
桐嶋さんはその落ち込んだ肩を、バシリと一発、強く叩いてきた。
「もういい。
明海にぶっちゃけたのは俺の方なんだから。
…ほら。さっさと帰るぞ、寒ぃ」
そう言って、またつかつかと俺を置いて歩いて行く。
寒さの中でもピシリと張って姿勢の変わらぬこの人の背中を、
改めて男前だと思った。
「桐嶋さん、ありがとう。
それでも俺を好きになってくれて…」
立ち止まりざまに振り返った桐嶋さんへ、
心からの謝礼を示す。
「……馬鹿。自分で言ってんじゃねぇよ。
勝手になっちまったんだから、仕方ねぇだろ」
そう言って口を尖らせる姿にくすりと笑い、今度は肩を並べて歩き出した。
ーーーー
やがて一つ目の曲がり角を見つけ、
わざと遠回りし人通りの少ない道を選ぶと、
やれやれといった態度で着いてきてくれた。
「……こんな外でもあったけぇのな」
寄せられた肩に、
今だけだぞと微笑む桐嶋さん。
ただ冷たいその手の感触が、
どうしようもなく心地良かった。
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世の中は偏見の吹きだまりですから...
一筋縄ではいかない、そんな恋は尊い。w
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